※現パロ



 みんな、恋愛に夢中だ。あの子はあの人と付き合っているとか、あの2人は最近別れたとか、女の子はそういう話がすきだとかいうけど、男だってたいして変わらない。あの子がかわいいとか、この子が綺麗だとか、そんな話ばっかりだ。おれは、すきとかきらいとか、いまいちわからないから、そういう話にあまり興味がない。まあ、女の子のタイプとかはあるけど、別にそれが目の前にいるからって、付き合いたいとかは思わない。どちらかといえば、昨日の野球の試合の話とか、漫画の話とか、どこの飯屋が安くてうまいかとか、そういう話の方がすきだ。べつに、何度か女の子と付き合ったこともあるし、なんかそれっぽいこともしてきたけど、これ、楽しいのかな、必要なのかなって思う。しかも振られる理由はいつも「思ってたのと違った」「わたしのこと好きじゃないんでしょ」って、そんなの知るか。おれを悪者みたいにして、満足か。そんなこともあって、もう恋とか愛とかめんどくさいなあと思っているのだけど、目の前で真っ赤になって泣きそうになっているこの人は、どうやらおれのことがすき、らしい。



「名前と、付き合いたいとかじゃなくて、その、ただ伝えたかっただけで、」
「えっと、雷蔵」
「っ、はい!」
「おれたち、男同士だよな」
「…うん」
「しかも、幼稚園からの幼馴染で」
「うん、」
「おれもお前も今まで女の子と付き合ってきた、と」
「そう、だね」
「でもお前はおれがすき、だと」
「………」
「なるほど、」


 なるほど、なるほど、と頷いていると、雷蔵はどんどん下を俯いてしまって、いよいよしゃがみ込んで、膝の上に組んだ腕に顔を埋めてしまった。あ、これは泣くな。おれは雷蔵に近づいて正面にしゃがみ込むと、ぐすぐすと鼻をすする音が聞こえてきた。やっぱり泣いた。相変わらず泣き虫だ。雷蔵の体が小刻みに震えるのに合わせて、昔から色素の薄い猫っ毛が震える。そろそろと雷蔵の髪を撫でれば、雷蔵はかすかに肩を揺らした。それでも顔を上げようとはしない。


「なんで泣くの、お前」
「やっぱり、きもちわるいでしょ、ぼくも、名前も、男なのに、っ」
「んー、まあ、普通ではないよな」
「、ひぐっ、」
「あー、もー、おれ、気持ち悪いなんて言ってないじゃん。そもそも思ってもないし」
「うそ、」
「嘘じゃない」
「うそだ、名前は、昔からぼくに優しいから、本当のこと、言わないんだ」
「じゃあさ、それ、どうしてだと思う?」
「…もしかして、名前も、ぼくのこと、」
「いや、違うけど」


 おれがそう言うや否や、おれの手は雷蔵によってはたき落とされてしまった。ひどい。雷蔵は涙でぐしゃぐしゃの目でこちらを威嚇するように睨みつけている。おれはその目をじっと見つめ返していると、雷蔵はまた腕に顔を伏せて、ぐずぐずと泣き出してしまった。泣き虫、泣き虫。どうせ今慰めても拒否されるだけだし。おれは膝の上に頬杖をついて、震える雷蔵の髪を眺めた。


「雷蔵、聞いていい?」
「…うん、」
「おれのこと、いつから好きだったの?」
「わかんない、ずっと、前から」
「じゃあ、なんで今まで女の子と付き合ってきたの?」
「…それは、名前のこと、諦めようと思って、…無理だったけど」
「いっぱい悩んだ?」
「…うん」
「悩んで、告白することにしたの?」


 うん。消え入りそうな声で返事が返ってきて、雷蔵はすん、と鼻を鳴らした。迷い癖のある雷蔵がおれに告白することを選択するまでに今までかかったということは、とおれは考える。唐突に黙り込んだおれを、少しだけ顔を上げた雷蔵が不思議そうに不安そうに見つめてくる。おれは雷蔵の頭に手を伸ばしてふわりふわりと撫でて、その手をそのまま涙で湿ったほっぺに滑らせた。驚いて目を大きく見開いた雷蔵を余所に、おれは自分の袖で雷蔵の涙を拭いてやる。その途端、雷蔵のほっぺはかあ、と赤く染まった。泣き虫な雷蔵の涙を拭いてやるのは、昔からおれの役目だった。そのときもいつも顔を真っ赤にさせていたなあ。そして、さっきまで泣いていたのが嘘みたいに、ふにゃりと笑うのだ。おどおどと視線を泳がせている雷蔵に向かって、「おれね、」と口を開いた。


「すきとかきらいとかよくわからなくて、どんなにかわいい女の子と付き合っても楽しくなかったのね。だってさ、デートもキスもセックスも、別に友達同士でだってできるじゃん。相手のことをたいして知らないくせに付き合ったりするから、どうでもいいことで喧嘩もするじゃん。結局、恋人っていうお飾りがほしいんじゃないの、と思うわけよ」
「…知ってる」
「うん、お前にしか言ってないし」
「…それで?」
「相手のことを知らないから、知ったときに受け入れられない。すきかどうか確認しないと付き合ってる気になれない。おれはそういうのがめんどくさい。でも、雷蔵だったら、ってさっき考えてみたんだけど、今さら知らないこともたぶんないし、すきかどうかって聞かれればすきだし、問題なくね?と思いましたわけでして」
「…そういうの、ずるい」
「うん、おれ、ずるいからさ、このままお前との関係がぎくしゃくするくらいなら、お前と付き合っちゃうのもアリかなって」


 そういうわけなんだけど、どうする?首を傾げて問いかければ、雷蔵はまたぼろぼろと涙をこぼして「すぐに捨てたら、許さないから」と応えた。それに、うん、と頷いたおれを見て、涙でぐしゃぐしゃの目を細めて、ふにゃりと笑った雷蔵をかわいいなあ、と思うあたり、おれはすでに絆されている。
 おれ、すきとかきらいとかはよくわからないけど、雷蔵にだけはいつもそばにいてほしいって、ずっとずっと、思っていたんだよ。









130309

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