橋の下なんてありがちなところで、楽しそうにおれと三郎を殴り、蹴り、突き飛ばす男たちを、おれたちは知らない。前世では忍者なんてやっていたおれたちも、この時代では普通の高校生で、男たちにこれといった抵抗もできない。これも全部なまえのせいだ。あいつがあちこちで人の恨みを買っては逃げて、それでも隠れることなく、へらへらしてやがるからだ。あいつ、前世のときからおれたちに迷惑しかかけない。できれば今世では絶対に出会いたくなかったのに。


「やあやあみなさん、ご機嫌いかがー?」


 軽やかな声でにこやかに手を振っているなまえに、おれと三郎は同時に顔を引きつらせた。明らかにそんな悠長にしていられるような状況じゃないことくらい、一目見ればわかるだろうに。おれと三郎の前に仁王立ちする男たちは、なまえの姿を見た途端、一瞬怯んだように身を縮めた。でもそれは一瞬で、にい、と悪道染みた笑みを浮かべて、地面に倒れこんでいたおれの胸倉を掴んで、無理やり起こさせた。三郎も同じように体を引きずられている。なまえと目が合えば、なまえは至極楽しそうに口元を緩ませた。


「お兄さん方、用があるのはそこのふたりじゃなくて、ぼくでしょう?まったく、頭が悪い人の考えることは短絡的でつまらないなあ」
「んだと!?」
「大きい声出さないでよ、うるさいなあ。どうせさー、真っ当に喧嘩しても勝てないから、ぼくの友達をボコって精神的に追い詰めてやろうぜ!っていう馬鹿げた考えなんだろうけど、それ、ぼくの友達じゃないんですよねー」


 やれやれと肩をすくめて、わざとらしい動作をするなまえに、男たちはイライラしてきているのがわかる。なまえの言ったことが図星だったからだろう。前世からの性格の悪さは治ることなく、むしろさらに悪くなってるんじゃないかと思うほど、ひねくれている。でもこの時代のなまえは由緒のある家柄に生まれていて、小さいころから武術を叩き込まれてきたおかげで、そこらの不良くらいには負けないくらいには強い。しかもなまえについているバックもやばい。代々続くお家には、そういう噂が付き物だ。真っ当に喧嘩をしても勝てる相手ではない。だからたぶんおれと三郎が巻き込まれているんだろうけど、なまえの言うとおり、おれたちは友達と言えるような関係じゃない。


「まあ、友達じゃないけど、ぼくの所有物ではあるんですよお、あは」


 にーっこり。無邪気に笑ったなまえに、男たちはビクッ、と肩をすくめた。途端に顔を青ざめて、おれたちをつかんでいた手から力が抜ける。地面に落とされて、その場に座り込んだおれたちに、なまえはやっぱりにっこりとほほ笑んだ。男たちは何か弁解しようとしているのか、何度か口を開いては閉じて、結局なにも言えず、そのまま口を噤んでしまった。


「人のものを壊してはいけない、って先生とか両親から教わりませんでした?」
「あ…、あ、いや、これは、知らなくて、」
「あーあーあー、言い訳なんて聞きたくないなあ。あ、そうだ、今度は間違えないようにぼくの本当の友達を紹介しておきますねー。ちょーど一緒に来てるんで。まあ、気が短い人ばっかりでねえ、手や足や刃物やスタンガンやバットやその他もろもろが出るかもしれませんが、ちゃーんとおうちまで送り届けるので、安心してくださいねっ!」


 語尾に音符でもつきそうなほど、楽しそうに言い放ったなまえの後ろには、明らかに無事には帰してくれなさそうな顔つきをした男たちが数人。それぞれの手には、さっきなまえが挙げたような恐ろしいものが握られていて、助けられた側のおれでさえも「ひっ…」と声がもれた。そのなまえの友達によってどこかに連れられていく男たちの声を背景に、なまえはおれたちの目の前にしゃがみこんだ。「あーあー、汚いなあ」と眉間にしわを寄せながらも、どこか楽しそうななまえの、考えていることがまったく読めない。


「2人ともぼろぼろだねー」
「…だれの、せいだと、」
「あはは、ぼくかなっ」
「………」
「睨むなって、鉢屋ー。わざわざ助けに来てあげたんだからさあ」
「…もうおれたちを巻き込むのやめてよ」
「えー、それは難しいなあ。だっておれ、昔からお前らのこと、大好きだもん」


 人懐っこい笑顔を張り付けたなまえに、ぞっ、と背筋が凍りついた。さっき男たちをつれていった男たちの数人が戻ってきて、おれたちをなまえの家まで送ってくれて、手当までしてくれた。なまえがいかに男前で素晴らしい人かっていうのを散々話してくれたけど、全部作り話のように聞こえてしょうがなかった。おれたちが帰る頃になまえが帰ってきて、「おー、気をつけて帰ってねー」なんてのほほんと手を振るものだから、そのあとしばらく何とも言えない複雑な気持ちになっていたのは、どうやら三郎も同じだったらしい。





■記憶あり転生。とにかく非道で非道で非道なんだけど最後の最後で小さな愛情を見せる男主と5年/綿鍋さま






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