前世で同級生だったなまえという男は、いつも愛情に飢えていた。愛情を振りまけば誰かが振り向いてくれると思い込み、誰彼構わず愛をささやいては自分に目を向けさせようとする、可哀想でうっとうしい人間だった。はずなのに、この変わりようはなんだというのだろうか。


「なまえはぼくたちのことが好きなんじゃなかったの?」
「はあ?わざわざ屋上に呼び出しといて、そんな話?」


 なにそれ、うっとうしいなあ。
 無表情でしれっと言ってのけるなまえに、胸の奥がずきっ、と痛む。みんなの顔を見回してみれば、みんな同じように傷ついた顔をしていた。なまえは柵に寄り掛かって「どうせ呼び出されるならかわいい女の子がよかったわ」とため息をついた、。この時代で再会したその日から、なまえはずっとこうだった。ぼくたちが近くにいても見ない、話さなきゃいけない場面になってもほとんど口を開かない、他のクラスメイトにはごく普通に接しているにもかかわらず、ぼくたちにだけ、冷たい。
 なまえがぼくたちをうっとうしそうにするたびに、胸の奥がずきずきと痛む。制服の胸のあたりをぎゅっ、と握りしめると、三郎が心配そうに背中をなでてくれた。三郎も兵助も勘ちゃんもハチも、みんな苦しそうな顔をしている。きっとぼくも同じような顔をしているんだろう。なまえと何か話をしたいのに何を話したらいいのかわからなくて、口をぐっ、と噛みしめていると、開けたままの扉の方からなまえを探す声が聞こえた。なまえは「話はそれだけだろ。おれ、もう行くから」と柵から体を起こした。このままだと、なまえが行ってしまう。あ、とぼくが声を出すのと同時に、勘ちゃんがなまえの腕を掴んだ。それを至極めんどくさそうに見たなまえは、低い声で「なに?」とわざとらしく首を傾げた。


「いや、別に…」
「なんだよ、お前ら、前はあんなに迷惑がってたじゃん、おれのこと」
「それは、なまえが、あまりにしつこかった、からで…」
「なら、喜べって。おれはもう二度とお前らに関わらないから」


 勘ちゃんの手を振りほどき、じゃあなー、と手を振って、ぼくたちの方を振り向くこともなく去っていったなまえに、ぼくたちはただ立ち尽くすしかなかった。勘ちゃんが、さっきなまえに振りほどかれた手を見つめて、悲しそうな顔をしている。その姿に、前世のなまえの姿が重なった。なまえはいつもぼくたちに付きまとっては突き放されるたびに、なまえは悲しそうに笑っていた。ぎゅう、と手を握り締めた兵助がぽつりとつぶやいた。


「こんなの、おかしいのだ」
「うん、そうだよね。あんなにぼくたちのことを好きだったくせに、酷いよね」
「この時代でも、なまえはおれたちを好きでいるべきだよな」
「ああ、私たちを好きじゃないなまえなんてなまえじゃないしな」
「…うん、そうだよ。おれたちのことを先に好きになったのは、なまえなんだもん」


 おれたちを好きじゃなくなったなまえが悪いんだからね。
 勘ちゃんの言葉が、すとん、と胸に落ちる。そうだ、なまえが悪いんだ。あのときのまま、なまえがぼくたちのことを好きでいれば何も変わらなかったのに、なまえだけが変わったからいけないんだよ。同じ時代に生まれ変わったんだから、ぼくたちは何ひとつ変わってないんだから、なまえもそうあるべきでしょう?






■室町ではみんな大好き愛してるだから僕を見て愛して!だった主を嫌っていた5年だけど、転生したら性格が逆転した主に戸惑い、いつの間にかのめり込んで病んでいくお話/たかの島さま






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