冬は寒いから好きじゃない。ぐるぐるに巻いたマフラーに顔を半分くらい埋めて、コートのポケットに手を突っ込んでも、寒さはちっともしのげない。制服って楽だし、かわいいけど、冬はだめだ。足が痛い。寒いっていうか、痛い。そんなことを考えながらぼんやりしていると、突然片方のイヤホンが抜けて、耳に流れ込む音楽が片方だけになった。こんなことをするのは、ひとりしかいない。怪訝な顔をしながらそっちを見れば、わたしと同じようにマフラーに半分顔を埋めた鉢屋が「よう」と声をかけてきた。「やあ」と返しながら耳からイヤホンをはずして、それもポケットにしまっていると、鉢屋はわたしの隣に並んで壁に寄りかかった。鉢屋の手にはとてもあたたかそうなミルクティーの缶が握られている。


「次の電車、何分だっけ?」
「あと10分くらい」
「おー。…みょうじ、足寒くないの?」
「あほほど寒い」
「女子って大変だな」
「そう思うならその手のものを恵んでくださいよ」


 だめもとでそう言ってみれば、鉢屋は「ん」と普通にわたしにそれを差し出してきた。思わぬ鉢屋の行動にびっくりして、じっとその缶を見つめていたら、鉢屋が「いらないなら私が飲むけど」と言って手を引っ込めようとした。慌ててポケットから手を引っ張り出し、缶を受け取る。あたたかい。冷えた指先が急にあたためられて、じりじりと痛んだ。


「鉢屋がやさしくて動揺した」
「返せ」
「ありがとう、いただきます」
「どういたしまして」


 プルタブを開ければ、ふわりと甘いミルクティーの甘い匂い。しあわせ。ふたりで並んだまま、ぼーっとしているうちに次の電車を待つ人が増えてきて、鉢屋とわたしの距離が縮まった。吐く息が白い。鼻の先が冷たいのがわかる。


「もうすぐ春休みだね」
「その前にテストがあることを忘れるなよ」
「テストやだねー」
「やだなー」
「大学生になったら、春休みって2か月くらいあるんだって」
「夏休みも2か月あるらしいぞ」
「休んでばっかりじゃん。大学生っていいね」
「そうか?」
「え、鉢屋は高校生のほうがいいの?」
「まあ、そうだな」
「へえ、なんで?」
「毎日会えるから」


 別に、なまえにとか言われたわけでもないのに、鉢屋がこっちを見てそんなことを言うから、自分のことかと、一瞬だけ思って、さっきまでがちがちに冷えていたはずの体が、急に熱を持ち始めた。慌てて鉢屋から顔をそらして、手元の缶に視線を落とす。「だれにー?」とか「鉢屋、好きな人いるんだー」とか、軽い感じで聞き返せばよかったのに、思わず黙り込んでしまって、沈黙がつづいてしまった。あああわたしのばか!黙り込むなよ!ばか!後悔しているわたしの肩に、どんっ、と鉢屋の腕が当たって、跳ねるように顔を上げた。どうやらもうすぐ電車が着くらしい。わたしとの間を詰めた鉢屋とわずかに肩が触れている。今までは普通に流していたことなのに、なぜか今は無駄にどきどきする。慌てて口を開いて出てきたのは「さ、さむいね!」なんていうしょうもないことだった。


「そうだな」
「あ、明日も学校だね!」
「ああ、明日も会えるな」
「! お、おう!」
「なにその男らしい返事」


 女らしくしろよ、と意地悪そうに笑った鉢屋にどきっ、とした。この人、よく見なくてもイケメンなんだよね。だからそういうのやたら似合うんだよね、むかつくことに。はいはい、と適当な返事をして、何も気にしてないふりをするけど、たぶん絶対おそらく、ばれてる。少しだけうつむいて、自分の頬に触れてみれば、びっくりするくらい熱かった。


「あー…、そうだ、これのお礼にチョコレートあげます、鉢屋さん」
「甘いの苦手だからいい」
「え、…ああ、うん、そう、へえ」


 ああんもう、心臓が破裂しそうだからやめてほしい。





■現パロ三郎と甘いお話/canさま





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