友達の恋は応援しろ?なんだそれ。馬鹿馬鹿しい。


「竹谷くん、手作りとか嫌じゃないかなあ…」
「うん」
「甘いもの嫌いだったりしないよね…」
「うん」
「あああ緊張で吐きそう…」


 うん。
 おれの話を一切聞いてないなまえは、かわいらしくラッピングされたプレゼントを目の前に、「うううう…」と唸っては、一人で百面相している。なまえの前にはブラウニーが入った箱がひとつ。1時間前からずっとそこに置かれたままのそれは、なまえが八左衛門のために作ったものだ。何度も何度も練習して、そのたびにおれに味見させて、やっと渡す約束をしたそれ。もちろんうまいし、ラッピングも男のおれから見てもかわいいと思う。あと、さっきから顔を赤くしてうんうん唸っているなまえも、かわいい。これがおれに渡すためのものだったらよかったのに。なんで八左衛門なんだろう。なんでおれじゃないんだろう。おれの方が先に知り合ったのにな。よく遊びに行くのもおれなのにな。八左衛門となまえは付き合うんだろうか。いや、たぶん付き合うんだろうな。八左衛門も、なまえのことやたら知りたがってたし。そしたら、こうやってふたりで会うこともなくなるんだろうな。…ああ、なんだこれ、馬鹿みたいだ。
 「ねえ、兵助」と上目遣いをしてくるなまえに、だんだん腹が立ってきた。


「なに?」
「味、変じゃなかったよね?」
「うまかったって」
「兵助、適当だからなあ、信用ならないなあ」
「八左衛門、何でも喜んで食べるよ」
「わかってるけどさー」
「もっと自信持っていいよ、なまえ」
「んー…」
「なまえはかわいいよ」


 途端になまえはかあ、っと顔を赤くして「ばっ、か兵助」と、肩を軽く叩いてきた。両手で頬を包んで「兵助みたいなイケメンがそういうのさらっと言うと犯罪なんだからね」とぶつぶつと言っている。それでもなまえがおれのことを好きにならないなら、全然意味はない。もうすぐなまえと八左衛門の待ち合わせの時間だ。おれがブラウニーを食べた紙皿とフォークを片付けて、八左衛門のためにラッピングされた箱を手に、なまえは「よし」と立ち上がった。


「今日のことは後で報告します」
「いらないよ」
「え、慰めてくれないの?」
「絶対に失敗しないから」
「そんな馬鹿な」
「大丈夫だって」
「…兵助がそう言うなら、頑張ってくる」
「うん、いってらっしゃい」


 行ってきます、と手を振って、八左衛門との待ち合わせ場所に向かうなまえを見送った。
 おれとなまえの関係を変えたいという気持ちより、今がこれからも続けばいいという気持ちの方が強かった。そう思うことほど、長くは続かないことは知っていたはずなのに。
 おれは背もたれに寄り掛かり、両手で顔を覆ってため息を吐いた。


「おれじゃだめなの」


 呟いた言葉は、誰に届くこともない。





  
■久々知→ヒロイン→←竹谷で久々知目線/ろじさま





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