「うう、どうしよー、どれもおいしそー…」
「こっちの桃のショートケーキ、期間限定らしいわよ」
「あら、こっちのモンブランもおいしそうね」
「あ、葡萄のタルトもありますよー」
「ああう、全部食べたい…」
名前がうんうんと唸りながら、ショーケースの中のケーキとにらめっこをしている。ここは名前が好きなケーキ屋さんで、4人で遊んだ日は必ず寄って帰る。服やアクセサリーが入ったたくさんの紙袋を肩に掛け直してから、「名前ならふたつくらい食べれるでしょ?」と声をかければ、「太るから…」と苦々しそうな声が返ってきた。呆れた。その細さで体重なんか気にしてるの、この子。
「名前ちゃんは十分細いですから、気にしなくていいですよー!」
「ユキちゃんのほうが細いもん…」
「ユキちゃんは細すぎるのよ。もう少し太ったら?」
「わたし、太れないのよね。結構普通に食べてるんだけど」
「なんて羨ましい!体質なんですねー」
「わたしと同じもの食べてるはずなのに、ずるい」
「はいはい、その話は後にしましょ。さっさとケーキ買って、名前たちの家に行くわよ」
その一言で慌てた名前に、ユキちゃんが「どれで迷っているの?」と声をかけた。フルーツタルトと桃のショートケーキを指差した名前の隣で、ユキちゃんは迷うことなくそのふたつを注文する。あとでふたりで分け合って食べるんだろう。わたしたちが全員名前に甘い自覚はあるけど、ユキちゃんはその中でも群を抜いている。幼馴染だから、というのもあるのかもしれないけど、それにしてはお互いを大切にしてます感が全面に出ているし、ひょっとしたら恋人関係です、ということもありえなくはないような気がする。どちらも今は彼氏はいないというし、そこのところどうなのかしら。このふたりの場合、そうだとしても何の驚きもおもしろみもないんだけど。
「あとで半分にしましょ」
「ユキちゃん、ありがとう」
ふにゃあ、と笑う名前に、ユキちゃんが照れたようにはにかむ。この光景を見れるだけで、ふたりを知らない人たちと比べたら、絶対に人生を得している。かわいい子と綺麗な子の組み合わせは至高よね。おシゲちゃんも同じことを考えたのか、にやにやと頬を緩めて、わたしの耳に顔を寄せて耳打ちをした。
「ふたりとも、とってもしあわせそうですね」
「ふふ、そうね」
自然と上がる口角を手で隠して、会計を済ませている二人を待つ。「あ、10円ない」「わたしあるよ、はい」 誰が見ても仲良さげなふたりの姿に、目を奪われている男共を睨みつけていると、へらへらと気持ちの悪い男がふたり、わたしとおシゲちゃんのほうに来た。腕を組んで睨みつけると、男は「いいねえ」と小声で呟いて、にやり、と笑った。それ、格好良いと思っているのかしら。
「お姉さんたち、すごい荷物だね。うちまで運ぶの手伝おうか」
「ついでに飯でも一緒にどう?」
「これから用事あるので結構でーす」
「それ以上近寄らないでくれる?あんたたちと知り合いかと思われたら、嫌なの」
わたしたちの態度が気に障ったのか、へらへらとした笑顔を引っ込めて、不機嫌そうな顔をした男たちの背後から、名前とユキちゃんが顔を出した。「ふたりとも行くよー」 この現状をまったく無視した名前ののほほんとした声に、男たちは後ろを振り返って、ピタッ、と動きを止めた。男たちはぽーっとした後、若干緊張した様子でふたりに声をかけようとしたけど、名前がわたしの手を、ユキちゃんがおシゲちゃんの手を握ってさっさと歩き出した。まだ男たちに声が聞こえる距離だと言うのに、ふたりはにっこりと笑って口を開いた。
「ちょっと目を離すとこれなんだから」
「ふたりとも、大丈夫だった?気持ち悪かったねー、さっきの人たち」
ああもう、これだからこのふたり、だいすき。
■せかいのはしっこの三人娘と主人公の日常風景。またはユキとのガールズデート/あんずさん 20130925
(あんずさんのおっしゃる通り、原作でいうなら主人公はまゆ、ユキはミーコのポジションとして考えています。設定としては、原作のまゆたちがいなくなった数年後の同じ場所、をイメージしています。原作を知ってる方がいらっしゃってとても嬉しいです!)