「名前、一緒にごはん食べよ!」
「………ああ、うん」


 きゃあきゃあという女の子の歓声を背負ってやってきた雷蔵くんに、わたしは嫌そうな顔を隠せない。雷蔵くんがそうやって女の子たちの歓声を引きつれてくるせいで、わたしはそれと同時に女の子たちの冷たい視線にさらされなくちゃいけないわけでして。ため息だって吐きたくなるよ、ちくしょう。
 わたしのお弁当が入った袋とわたしの腕を掴んで「はやく、はやくっ!」と急かす雷蔵くんの笑顔といったら。いたい、廊下にいる女の子たちの視線が痛い。クラスメイトたちは憐れむような視線を向けてくるけど、それさえも痛い。雷蔵くんにきゃあきゃあ言ってる女の子たちは知らないんだろうけど、雷蔵くんって少し、というかだいぶ痛い子なんだぞ。前世とか運命とか言っちゃう厨二病男子なんだぞ。それを一度でも目撃したことのある人は、わたしに憐れむような視線を向けてくれるけど、それはそれで自分がみじめに思えてくるからやめてくれ。


「今日は天気がいいから、中庭で食べようか、それともいつも通り4階の踊り場にしようか、うーん…」
「わたしは人目につかない踊り場がいい」
「でもせっかく天気がいいんだし、うーん…」
「日焼けしたくない」
「名前はもう少し日焼けした方がいいと思うんだけど」
「どうせ引きこもりだよ」
「うーん、わかった、踊り場にしよう。二人っきりになれるしね」


 わたしの顔をいちいち覗き込む雷蔵くんにはいはい、と呆れた返事をしても、雷蔵くんは絶対に折れない。でも、少しでも突き放すような言い方をすると、子どもみたいにぼろぼろと泣き出したりする。扱いづらいことこの上ない。雷蔵くんに振り回されて2年目。雷蔵くんの顔の良さに無駄にときめいていた時期もありました。もう慣れた。
 階段を登りきった踊り場に、雷蔵くんがどこかから勝手に盛ってきた机と椅子がある。高校に上がるまでは、屋上には当たり前に出られるんだと思っていたけど、実際はそんなことはなく、屋上へ続くドアは当たり前に堅く閉ざされていた。だからって勝手に机と椅子を持ってきた雷蔵くんにはびっくりしたけど、雷蔵くん、変に行動力あるから、うん。いつものように雷蔵くんの話に適当に相槌をつきながら、お弁当を食べていると、雷蔵くんが突然「そうだ!」と声を上げた。


「名前、今日の放課後空いてる?」
「空いてるけど、まさかまた誰かに会わせたいとか言わないよね?」
「あったりー!」
「なにその語尾に星がつきそうな感じ。わたし、この間会った雷蔵くんの弟と尾浜さんだけで十分だよ、前世の話はもういいよ、わかったよ」
「あのときの名前、ずっと引きつった顔してたね」
「いやだって、ねえ?」
「みんな大切な友達だから、名前にも会ってほしいんだ。それに、もしかしたら誰かに会った拍子に何か思い出すかもしれないでしょ?」


 いやそれはない、と思うんだけど、希望にあふれたキラキラ笑顔に雷蔵くんの前では言えず、わたしは「そう、だね」と引きつった笑顔を向けた。雷蔵くんはまた前世の わたし の話を始める。くのいちを目指していて、強くて、優しくて、戦の中で死んでいった、女の子の話。雷蔵くんが楽しそうだから何も言わないで聞いているけど、本当は興味もないし、聞きたくもない。だって、それが誰の話なのか、わたしは知らない。知らない話をされたっておもしろくないのは当然のことだ。


「あ、名前、たまごやきちょうだい」
「はいはい、どうぞ」
「あーん」
「いや、自分で食べなさい」
「いいでしょ、減るもんじゃないし」
「………ねえ、その前世のわたしと雷蔵くんって、恋人同士だったの?」


 わたしが呆れてそう言えば、雷蔵くんはふっと黙り込んでしまった。首を傾げて雷蔵くんを見れば、雷蔵くんはふるふると首を横に振って、とても悲しそうな、今にも泣き出しそうな顔をした。


「今も昔も、ぼくが名前を好きなだけだよ」


 その表情に、胸の奥がきゅう、と締め付けられたわたしは、慌てて雷蔵くんから視線をそらした。雷蔵くんのその表情を、どこか、遠い記憶の中で見たことがあるような気がした。






■もしも雷鳴主と雷蔵が同い年だったら/ひよりさま
 20130910





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