食堂に行く途中でぽっかりと空いている穴を見つけて覗き込めば、銀色の髪がきらきらと揺れていた。穴の淵にしゃがみ込んで、夢中で穴を掘っている喜八郎を見下ろす。喜八郎は気づかない。


「きはちろーくーん」
「…ん?あ、名前」
「あ、じゃないよ。空を見て、喜八郎。もう夕食の時間だよ」


 こちらを仰ぎ見た喜八郎は「ほんとだ」と、いつもと変わらない調子で答えた。その顔にはあっちこっちに土がついている。制服も土だらけだろうしなあ。これはごはんよりも先にお風呂かなあ。今日も一緒にご飯は無理か、はあ。わたしが少しと落ち込んでいると、喜八郎が踏み鋤の踏み子ちゃんを肩に掛けたまま、ぼーっとこっちを見上げていた。膝の上で頬杖をついて首を傾げてみても、喜八郎はぼーっとこっちを見つめている。うーん、なに考えているかわかんないなあ。喜八郎とずっと同室の滝夜叉丸ならわかるのかなあ。なんだかんだ仲いいよねえ、あのふたり。
 食堂に向かうくのいち教室の友達に「名前、なにやってんの?」と声を掛けられて顔を上げる。わたしが答えるより先に「やあねえ、逢い引きよ」と違う友達が答えた。くすくす笑いながら食堂に向かった友達を見送りながら、これが逢い引きかあ、と黄昏る。どうせならもっと素敵な逢い引きをしてみたい。


「名前」
「んー?」
「すきー」
「…いきなりなによー」


 変な喜八郎、と呟きながらも、緩む口元を隠せない。ふにゃふにゃと緩むほっぺを両手で包んで隠してみるけど、ああだめ、笑っちゃう。まだこっちをじっと見上げてくる喜八郎に、「…わたしもすき」と小さく返せば、喜八郎が突然穴から這い出てきた。あまりの勢いにびっくりして尻もちをつくと、土だらけの喜八郎がわたしの手を掴んだ。


「え、え?」
「名前、行こう」
「え、どこに?」
「逢い引き」
「あ、逢い引き?今から?どこに?」
「食堂」
「…あ、なんだ、食堂ね、うん。でも待って喜八郎、その格好じゃ駄目だよ。土が、」
「いいの」
「せ、せめて踏み子ちゃんは部屋に置いてこうよ」


 絶対おばちゃんに怒られるよー!、というわたしの声に足を止めた喜八郎の背中にぶつかる。ふわっと土の匂いがして、あわわ、と離れれば、喜八郎がこっちを振り向いた。何かを考えているような様子の喜八郎に首を傾げる。


「まだ時間はあるし、ついでにお風呂も入ってきたら?」
「名前、先に食べてる?」
「え?待ってる?」
「うん」
「あ、うん、わかった」


 待ってる、と頷けば、喜八郎もうん、と頷いて、わたしの手を離した。そしてその手でおもむろにわたしの頭を撫でて、そしていきなりぎゅ、と抱き寄せられた。いきなりのことに硬直するわたしを余所に、喜八郎はひとりで満足そうな顔をして、さっさと行ってしまった。え、え、今、なんで抱きしめられたんだろう。かかか、と熱くなるほっぺを両手で抑えながら、どんどん小さくなる喜八郎の背中を眺めてみても、わかるはずはなく。喜八郎の姿が見えなくなってもぼーっとしていたわたしを見て、くのいち長屋に戻る途中の友達が「あの子、何してるのかしらね」「さあ?綾部と逢い引きの約束でもしたんじゃない?」「あら、仲良くていいわねー」「ねー」と話していたなんて、まったく気付かなかった。





■綾部と相思相愛。ほのぼの甘/るいさま
 20130910





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