家が近所の幼馴染という位置に名前がいたときは驚いた。何の因果か知らないけど、前世の記憶を持って生まれてくるおれたちは、生まれた瞬間から前世の記憶があるわけじゃない。物心がつき始めた頃からだんだん思い出してきたり、他の知り合いに会ったときにふと思い出したりとさまざまだけど、今回は突然思い出したパターンだった。ある日突然、あ、そういえば、というような感じで思い出した。おれの隣の席で、真面目に授業を聞いている名前を盗み見れば、前世の名前よりもだいぶ女の子らしく、健康的で、かわいい。あの時代よりも豊かになったこの時代と比べるのも、おかしいかもしれないけど。おれの視線に気づいた名前がこっちを見て怪訝そうな顔をする。先生に聞こえないように小さな声で「なんでこっち見てるの」と言う名前に、にへ、と笑ってみせれば、気持ちの悪いものを見たかのような顔をされた。失礼なやつ。


「名前に見惚れてた」
「…勘、頭おかしくなったの?」
「なってない、なってない」
「どうでもいいけど、授業に集中したら?優等生さーん」


 嫌味っぽく強調した言い方をした名前に向かって、べーっと舌を出せば、おんなじことをされた。また真っ直ぐと前を向いてしまった名前に飽きて、おれも黒板の方に顔を向けた。あの時代の名前は、雷蔵の好きな人、という認識しかなくて、成績がいいのかとか、実力はどのくらいのなのかとかも、いまいちよくわからない。でもこの時代の名前を見る限りだと、自分の興味のあること以外はうまく手を抜く、要領のいい性格をしていると思う。さばさばとしているわりには、いろんなこともきちんと考えていたりする。なんだかんだこの歳まで仲良く幼馴染をしているあたり、性格の相性は悪くないんだろうなあ、たぶん。時々抜けてる名前をおれが放っておけない、っていうのもあるんだけど。
 つまらない学校はあっという間に終わり、いつも通り名前に「帰るよー」と声をかけたら、名前はあーとかうーとか言って、帰るのを渋っていた。ものすっごくめんどくさいそうな顔をしている。


「なんか用事でもあるの?」
「いやー、ね、今朝、引き出しの中にこんなものが入ってまして」
「ほほう、呼び出された、と」
「…めんどくさい」
「名前にそんな手紙を出す勇者がいたとはねえ」
「なにそれ、失礼」
「いや、名前がかわいくないとかそういうことじゃなくてね?」
「うるさい」


 名前から受け取った手紙には「今日の放課後、校舎裏で待っています」としか書かれていなくて、名前も組も何も書いていなかった。字も普通、手紙も普通。これだったら、この前の詩を書いてきた手紙の方がおもしろかった。この時代の名前は男にとても好かれるようで、想いをしたためた手紙を下駄箱やら引き出しやら鞄やらに入れられては、顔をしかめている。名前曰く、知らない人とお付き合いをする気にはなれないのだそうだ。さすが、おれが小さい頃から言い聞かせてきただけある。雷蔵のことももちろんあるけど、おれは幼馴染の名前が実は、すきだったり、する。
 肩より下で切り揃えられた髪をいじり、んー、と悩んだ末に「いいや、勘、帰ろう」と立ち上がった名前に「そうこなくっちゃ!」と乗る。鞄を脇に抱えて、ふたりで廊下に出れば、あっちこっちから感じる視線。悪いけど、お前らの憧れる名前は、今のところおれのだから。くっくっ、と笑うおれをやっぱり気持ち悪いものを見るような目で見る名前の頭を撫でる。脇腹をどつかれたけど、気にしない。


「名前んち、今日の夕飯なに?」
「コロッケ」
「えっ、いいなあ!おれもそっち行っていい?」
「なに言ってんの、自分んちで食べればいいじゃん」
「名前のコロッケうまいんだもん」
「おばさんが悲しむよー」
「むしろ手間が省けて喜ぶって。ねー、いいでしょ名前ちゃーん」
「気持ち悪いからやめてくれる?帰りに商店街に寄っていくけど、いい?」
「荷物持ちなら任せて!」


 財布の中身を確かめている名前の横顔を盗み見て、自然と頬が緩んでしまう。雷蔵がこのまま現れないなら、おれが名前をもらっちゃってもいいよね。まあ、雷蔵が現れても、簡単に渡すつもりはこれっぽっちもないけどね。







■雷鳴主が尾浜と結婚したときの話/サキさま
 20130925





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