好きだと伝えたこともなければ、好きだと言われたこともない。いつから好きだったのかもわからない。それでもいつの間にか始まっていたこの関係を、仙蔵は愉快そうに笑い、文次郎は関わりたくなさそうに顔を顰め、留三郎はめんどくさそうにため息を吐き、伊作は的外れなアドバイスをしてくる。長次は、私には何も言わない。なまえのことを一番気にしているくせに、私には何も言わない。
 なまえの姿がなかなか見つからないときは、大抵図書室にいる。図書委員会じゃないと入れない貸出禁止書庫の中で、昼寝をしていることが多い。今日もなまえを探して図書室に来てみれば、貸出禁止書庫の奥で長次の背中にもたれかかって眠っているなまえを見つけた。長次の前に立ち、黙って見下ろす。長次は読んでいた本から視線を上げて、私を真っすぐに見上げた。


「なまえ、連れてくぞ」
「…さっき寝たばかりだ」
「なまえの部屋に連れてく」
「小平太、なまえにあまり無理をさせるな」
「なまえは嫌なことは嫌だとちゃんと言う」
「それを聞いてやったことはあるのか」


 じっと私を責めるように見る長次の言葉に、口を閉ざす。嫌だ、嫌だ、と泣くなまえをねじ伏せ、黙らせ、


「いつか愛想を尽かされるぞ」
「…その方が……」
「…小平太」
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「見えない臓器の名前は」
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