せかいのはしっこ



 ずしゃっ。わたしのひ弱な体は硬いマットの上に投げ出される。わたしの体を包むふわふわのフリルやレースは、わたしの体を守るためのものではないから、打ちつけられた背中に激痛が走る。痛い、痛い痛い痛い。動けずにその場に倒れたままで、まぶしいライトの光を背後にして立つ女の子を見上げた。彼女がまとう黒いラバー生地の際どいSMファッションから伸びる長い手足がやけに白くて、綺麗で、わたしは感嘆のため息を吐く。わたしがまとっているのはフリルとレースがたくさんあしらわれた可愛らしいミニスカメイド服。胸はわざと小さめのブラジャーをつけて潰してある。コンセプトは、ロリ系メイド。2人とも、安いAVから飛び出してきたみたいだ。
 SM女王様に扮した彼女がわたしの胸ぐらをつかんで立ちあがらせる。ちかちか、ちかちか。ライトの光がわたしたちを照らし出す。一段低くなっている観客席には、コップを片手にこちらを眺めている人もいれば、檻の周りに群がってわたしたちを舐めるように見ている人もいる。今日は、やけにうるさい。歓声を上げているお客さんたちに何気なく視線を流すと、会場はまた盛り上がる。怪物の咆哮のようなそれに、頭がくらくらする。うるさい。自力で立つことを諦めたわたしを持ち上げたまま、目の前の女の子はふわりと笑った。その場にそぐわない、やさしい微笑みだった。一番近くにいるわたしにだけわかるように。次の瞬間には彼女の片手が振り上げられ、それがわたしのほっぺたに振り落とされた直後、会場は今夜一番の盛り上がりを見せた。わたしの体は再びマットに打ちつけられる。痛い、いたいよ。
 ふと、わたしの名前を呼ぶ声が聞こえた。もしかしたらずっと呼ばれていたのかもしれない。手を叩く音もする。この人たちは、わたしを心配なんてしていない。弱いわたしを見て、興奮しているのだ。美しい獣のような彼女は、そのSMファッションによく似合う妖艶な笑みを浮かべている。彼女のほうが、マットの上に横たわるわたしなんかより、ずっとずっと美しい、のに。

 どうして、わたしの名前を呼んでいるんだろう。











 『world's nook』

 毎週土曜日の夜、都会の闇に隠れるようにこっそりと開催されている会員制のガールズファイト。都心からそう遠くないにもかかわらず、一度行っても二度目は迷ってしまうほど入り組んだ道を進んでいくと、ふと寂れた小学校が現れる。昔、統廃合されて廃校となったそこは、普段は鍵がかかっていて、入ることはできない。土曜日の夜になるといつの間にか鍵が開けられ、ガールズファイトを見るために、客たちはその門をくぐってやってくる。入場料は一万円、指名料は二千円からと少々値が張るにもかかわらず、会員数は増え続けている。
 小学校の昇降口から薄暗い廊下を進んでいくと、やけに広い中庭に行きつく。そこにはたくさんの寂れたベンチと八角形の黒い檻が設置され、薄暗いライトの光がその檻を闇の中に浮かび上がらせている。その檻の中で、各種折々のコスチュームに身を包んだ女の子たちが銀色の手錠をかけられ、鎖を揺らし、自分たちを見上げる客たちに視線を流す。会場に鳴り響く音楽で、周りの声は何ひとつ聞こえない。
 突然音楽が止まる。ライトの光が檻からひとりの男に移り、一点をライトアップする。きっちりとスーツを着こんだ若い男は、マイクを片手に笑みを浮かべた。


「さあ、皆さん。ショーの始まりです」


 それを合図に檻の中の女の子たちが吠える。吠える。ライトがぐるんぐるんと会場中を照らす。
 そして今夜も、ガールズファイトが始まる。







1304010

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