可愛い子、お願いよ



 かたかた、と小刻みに震える手で、少しでも流れる血を止めようとするが、それはほとんど意味を成さず、あっという間に綺麗な着物は赤く赤く染まっていく。ああ、どうして、どうして。霞む視界でその人は歪に微笑んだ。体を動かそうとするのを必死になって止めても、わたしの声は震えて、音になっていない。細い綺麗な指先がわたしの頬を撫でる。その手を赤く染まった手で握り締めて、呼んだ名に、その人は目を細めて、わたしの名を呼んだ。耳を寄せれば、もう一度わたしの名を呼ぶものだから、わたしはとうとう涙を零した。


「可愛い子、お願いよ、」


 それにわたしがかすれた声で応えれば、その人は満足そうに笑って「愛してるわ、可愛い子」と。それを最期に声を無くしたその人のそばを、わたしはいつまでもいつまでも、離れられなかった。わたしがいないことに気づいて探しにきた男衆がわたしを迎えに来るまで、ずっと。

 その日、花街で一人の遊女が死んだ。しかし、誰も特段気にした様子はない。今日も今日とて花街は賑わい、人々は世を嗤う。狂っている。そんな感情に蓋をして、わたしは今宵も虚偽の愛を囁く。少しでもあの人の背を追えるように、と。








130410



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -