僕の膝の上を独占して、すやすやと眠っている子の、やわらかい髪を撫でる。気持ちよさそうに眠るこの子を起こすことができず、時刻はもうすぐ委員会が始まる時間。困ったなあ、と苦笑いを浮かべて、どうしようかと考えていると、開けっぱなしの戸から留三郎が顔を出した。僕と、僕の膝で眠る子を見比べて、不思議そうに首を傾げた。


「伊作、委員会行かなくていいのか」
「うーん、行かなきゃいけないんだけど、名前がねー」
「起きないのか。よし、俺が起こしてやる」
「え、やめた方が、」


 僕が言うよりも早く、留三郎が名前の肩を揺すぶる。バランスを崩して僕の膝から落ちた名前が、不機嫌そうに僕を見上げてきた。緑色の瞳に睨まれると不思議な迫力があって、ちょっとこわい。ぶんぶんと首を横に振って、「お前ほんとに伊作すきだよなー」なんてのん気に笑っている留三郎を指差せば、名前は留三郎を睨みつけて、威嚇している。留三郎が「わ、悪かったって…」とたじろぐや否や、名前は僕の太腿に顔を埋めて「僕の味方は善法寺先輩しかいない」ともごもごと呟いた。うーん、その言葉は嬉しいんだけどね。


「食満先輩は今日からきらいになります」
「なっ!……いや、いいや。お前、委員会いいのか」
「今日はいいんです」
「作法委員の後輩たちがお前のこと探してたぞ」
「………」
「仙蔵と喧嘩でもしたの?」
「…この前の実習、途中で帰ってきたことが立花先輩にばれて、しつこく怒られたんです…」
「ああ、なるほど…」
「それは、うん、そっか…」
「立花先輩、あやちゃんの落とし穴に無様に落ちればいいのに」


 名前のことになると、仙蔵、姑みたいになるからなあ、と呆れたように留三郎と顔を見合わせた。また、仙蔵が関係してそうだな、とは思っていたけど、本当にそれが当たるとはね。名前は、仙蔵にねちねちと怒られたことに対して拗ねているだけで、どちらかが折れるか何かすれば簡単に解決する話なんだけど、このたいしたことない問題に、いちいち他人を巻き込むから厄介なのだ。僕たちが心配していろいろ手を出したところで、解決しないことなのに。仙蔵への呪いのようなものを呟きながら、ぐりぐりと頭を押し付けてくる名前の髪を撫でる。はやく誰か迎えに来ないかな、と考えていれば、とたとたとた、と廊下を走る音がして、ひょこ、と綾部が部屋を覗き込んだ。


「やっぱりここにいたんですねー」
「お、名前、綾部がきたぞ」
「行かない」
「僕たちも委員会に行くから、一緒に行こうよ」
「行かないったら行かない」
「立花先輩の機嫌が悪くて大変なんですよ。可愛い後輩たちを助けると思ってー」
「可愛い後輩たち、ごめんね。僕は今日、善法寺先輩から離れないことにしたんだ」
「名前先輩の薄情者ー」


 綾部がぽこぽこぽこと名前の背中を叩いている。それを微笑ましい気持ちになりながら眺めていると、やっと、やーっと、事の原因である仙蔵がやってきた。部屋の中を見た瞬間、仙蔵の顔がひくっ、と痙攣してたけど、僕は何にも悪くないからね。仙蔵が部屋に入ってきたことに気がついた名前が慌てて僕の忍装束を握り締めた。やめてよー、後でねちねち厭味言われるの僕なんだからやめてよー。不機嫌極まりない仙蔵は、無言で名前の身体を脇に抱え上げる。「ぎゃ!」と声を上げた名前は、驚いた拍子に僕から手を離し、つり目がちな目を大きく見開いた。状況を理解した瞬間、「やだやだ!」とじたばた暴れ出すが、とても細身な名前が暴れたところで仙蔵はまったく動じない。ついでに横にいた綾部の衿を鷲掴み、「邪魔したな」とこっちを睨みつけてきた仙蔵に、苦笑いを浮かべながら手を振った。仙蔵に引きずられている綾部が手を振り返してくれた。


「他の奴に迷惑をかけるな、阿呆」
「立花先輩なんてきらいですばかあほまぬけ」
「黙らないと私の部屋に監禁するぞ」
「潮江先輩に助けてもらいます」
「奴が私に逆らえると思っているのか、愚か者」
「可愛い後輩代表としては、さっさと立花先輩が素直になればいいと思うんですよー」
「喜八郎、うるさい」
「痛っ!うわーん、名前先輩ー、立花先輩に落とされたー、痛いー」
「あやちゃんたら可哀想に。ついでに僕のことも救出して。一緒にどこか遠くへ逃げよう」
「なるほど、愛の逃避行ですねー」
「うん。あやちゃんだいすき、愛してる」
「わーい、僕も名前先輩すきですー」
「喜八郎、さっさと来い。名前、小平太がいるぞ。呼ぶか?」
「や、やだ…」


 仲良さそうな三人の掛け合いに、留三郎と同時にため息をついてしまった。
 あーあ、もう、さっさとくっつけばいいのに、ねえ。






130409

主人公:5年は組。作法委員会。南蛮人とのハーフ。
    気まぐれ。あまのじゃく。自己中心的。甘えたがり。自由。めんどくさがり。




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