僕の初めての担当となったのは五年い組だった。僕が学園にいたとき、彼らは三年生。作法委員会にはこの学年の委員がいなかったから、すごく仲のいい後輩はいない。だから僕に任されたっていうのもあるんだろうけど。だって六年生とかだったら、絶対、絶対やりにくい。五年い組の生徒は、い組なだけあってみんな真面目で意欲的。教えてる側からしたらとてもやりやすいし、僕のことを知っている生徒もいるみたい。他のみんなに比べたら、全然目立たない生徒だったんだけどなあ。


「どこが目立たない生徒だったっていうんですか」
「ええ、僕以外のみんなはぶっ飛んでたけど、僕は普通だったでしょ?」
「五年生のときから有名どころの忍者隊からスカウトされ続けて、それ以来誘拐してでも欲しい人材として引く手数多だった人は普通とは言いません」


 尾浜がやれやれ、と言いたげな顔でため息をついた。誘拐されかけたなあ、と思いだした僕は思わず苦笑い。尾浜はそんな僕を上目遣いで見つめて、ふふ、と顔をほころばせた。目がくりくりしている。かわいい。
 ちなみにここは五年い組の教室。何故ここに僕がいるかというと、事務室にいた僕のところに尾浜が「勉強を教えてください!」って言って奇襲してきたからだ。小松田くんの監視の仕事があってけど、可愛い生徒の頼みを断ることもできず、むしろ生徒に頼られて嬉しい僕は尾浜に手を引かれて、勉強を教えていたのだった。けど、もともと成績のいい尾浜に教えることはほとんどなく、こうして世間話に花を咲かせているというわけだ。なぜ呼ばれたのかわからない。


「名前先生ってすっごいモテてましたよね。好きな人とかいたんですか?」
「モテてないよ。好きな人とかもあんまりねー。そんな尾浜は、好きな人いるの?」
「いますよー。入学したときからずっと好きな人が」
「ってことは5年?すご。告白しないの?」
「できないですよ。俺なんかが告白しても、絶対振り向いてくれないですもん」
「えー、尾浜に告白されたら、その人も嬉しいと思うけどなあ」
「嬉しい、ですか?」
「ん?」
「名前先生は、俺に好きって言われたら、嬉しいですか」


 いきなり僕の方に身を乗り出してきた尾浜に、僕は思わず「え、う、うん」と頷いてしまった。そしたら尾浜はぱああ、と効果音がつきそうなくらい顔を輝かせて、極上の笑顔を浮かべた。え、え、なに?誰かに認めてもらって自信を持ちたかったのかなあ。しかし五年ってすごい。僕だったら、途中で諦めるか、さっさと告白しちゃうなあ。このイケメンな尾浜がずっと片想いをしてるくらいだし、相手は相当な高嶺の花とみた。嬉しそうに「やったあ」って笑っている尾浜の頭をぽんぽんと撫でると、また上目遣いを僕を見つめてきた。これで靡かない人なんているのかなあ。


「尾浜はいい子だよ。自信を持ってね」


 うわあ僕、先生っぽいこと言ってる。何やらぼんやりとして「…はい」と小さく頷いた尾浜に「今日はこれで終わり。尾浜と話せて楽しかった。また明日、授業でね」と最後にもうひと撫でして、僕は五年い組の教室を出た。さて、事務室に戻るとしましょうかね。小松田くん、吉野先生に怒られてないといいんだけど。
 そう思いながら事務室に向かっていた僕の前に、突然仙蔵が現れた。なぜか呆れ顔の仙蔵に首を傾げつつ、「どうしたの?」と声をかければ、わざとらしくため息を吐かれた。かなしい。


「幸せが逃げるよ、仙蔵さん」
「本当ですよ、まったく。貴方は昔から…、はあ」
「ため息やめてつらい」


 しくしく、と泣き真似してみても、仙蔵は冷たい目で見てくるだけで、何も反応してくれない。かなしい。昔はいちいち反応してくれて可愛かったのになあ。喜八郎は仙蔵のこういうところをきっちり受け継いでしまったみたいだし、僕の癒しは藤内だけだよ、もう。一年生はまだあんまり交流ないからわからないけど。
 顔を覆っていた指の隙間から見える仙蔵が不機嫌な顔をしていたから、僕は手を下ろし、にっこりと笑って首を傾げた。僕はもう先生なんだから、仙蔵をからかって遊んじゃいけない。


「それで、仙蔵、何か僕に用でもあった?」
「…いえ、特にこれといった用はありません」
「え、ないの?」
「…不用意に誰かと二人きりにならないでください、って忠告しに来ただけです」
「忠告?」
「貴方はもう少しご自分の魅力を知るべきです。見てるこっちがはらはらする」


 仙蔵はそう言って、不機嫌な顔のまま僕が歩いてきた道を戻っていった。僕はその後ろ姿を見ながら、首を傾げる。はて、僕の魅力とは何ぞや。でも、仙蔵に言われたくない話だ。入学してきたときから綺麗な子だとは思ってたけど、二年前よりさらに磨きがかかった仙蔵こそ、もっといろんなことに気をつけるべきじゃないか。あんまりにも綺麗になってたから思わず見とれちゃったことは、絶対に仙蔵には言ってやらない。絶対に。
 仙蔵の気配が遠くなってから、僕は身体の向きを変え、事務室に向かう。さっきよりも少しだけ気分が悪い。あー、二年って案外大きいなあ。








130127

仙蔵が一方的に片想いバージョン。
なんか主人公の性格変わった気がしないでもない。




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