君が儘に


「スカートが短すぎる」


 人がたくさん行き交う廊下で突然手を掴まれたと思ったら、その相手は久々知で、どうしたの?、と首を傾げてみれば、拗ねたような顔をして呟いた言葉に、わたしはぽかんと口を開けてしまった。スカート?え、今さら?というのが正直なところ。この学園の厳しい生徒会に入っている久々知の制服は、校則にひとつも違反することなく、正しくきちんと着られているのに対して、わたしの制服はスカートも短ければ、カーディガンも指定のものではない。ついでに髪も茶色だし、化粧もしてるし、ピアスもしている。校則を守っているところを探す方が難しいって、生活指導の先生に呆れられるくらいだ。だから今さら何を言ってるだろう、って思いながら、自分のスカートを見下ろしてみる。うん、いつも通りです。


「昨日と一緒だよ?」
「そうだけど、だから駄目なのだ」
「え、よくわかんない」
「化粧も駄目」
「わ、やめて久々知っ」


 いきなり手でわたしのほっぺを強くこすった久々知の手を押し返す。無理やりにでもわたしの化粧を落としたいらしい久々知は、ぐぐ、と手に力を入れてくる。わたしは慌てて下を向いて、目の前の久々知に頭突きを喰らわせてみた。うっ、を息をつまらせた久々知に、ざまあみろ!、って笑ったら、久々知は切れ長の目をまん丸に見開いて、かあ、と顔を赤く染めた。わたしはにっこり笑って久々知の顔を覗き込んでみれば、久々知は完全に目が泳いでいた。おもしろい。


「理由を教えてよ、久々知」
「さ、最近このあたりで可愛い子に声をかけて回っている学生グループがいるっていう話を聞いて、あの、名前…」
「ん?なに?」
「顔、あんまり見ないでくれ…っ」


 耳まで真っ赤になっている久々知が空いている手で顔を半分覆った。その途端、廊下に女の子たちの黄色い声が響く。久々知はとても綺麗な顔をしているから、ファンクラブもあるくらい女の子に人気がある。久々知をすきになる子には真面目な子が多いらしく、みんなわたしの存在が怖いと言って、直接告白する子は少ない。ラブレターなんかはもらっているけど、わたしが面白がって「良かったじゃん、付き合っちゃえば?」と言って久々知を泣かせていたせいで、最近じゃラブレターをもらっても隠すようになってしまった。おもしろくない。とか言うとまた久々知が泣くので、あんまり言わないけど。
 わたしは久々知から視線を外すと、久々知が明らかにほっとしたように息を吐いた。このやろう。


「スカートはこれしかないから無理だけど、指定のカーデはどっかにあった気がする。化粧は、んー、少しくらいなら薄めにする」
「あ、ありがとう、名前…!」
「てかあれだよ久々知、一緒に学校来て、一緒に帰ればいいんじゃない?」
「え、でも名前、おれの生徒会が終わるまで待てないって言って、いつも先に帰るじゃないか」
「いやー、実は成績がやばすぎて進級できるかわかんないぞ、って先生に脅されて、今日から毎日居残り補習受けなきゃいけないんだよね」
「…へ、」
「だから一緒に帰れるけど、どうする?」


 わざとらしく首を傾げてみれば、久々知は口元を手で覆ったまま、何度も何度も首を縦に振った。目が物凄くきらきらしてる。そんなにうれしいのか。うれしそうな久々知を見ていると自然と顔が緩んでしまう。ずっと握られたままの手に少しだけ力を込めて、「じゃあ、また放課後にね」と言って、手を離す。あからさまに名残惜しそうな久々知に背中を向けた途端、たくさんの女の子の視線が注がれる。それに笑顔を返しつつ、わたしを待っていてくれたいつもの派手な集団に混ざった。「見せつけてくれるねー!」と笑う友達に「まあ、なんだかんだだいすきだからね」と返して、わたしはシャツのボタンをひとつ閉めた。






130119

優等生久々知×派手な女の子

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