最悪だ。なんで休日にまで学校に来なくちゃいけないんだ。いや、まあ、月曜日に提出の課題を丸ごと忘れたぼくが悪いんだけど。とぼとぼと歩く廊下はいつもの賑わいがなくて、とても静かだ。グラウンドや体育館はいつもの倍くらい騒がしいけど、こっちにはかすかな声しか聞こえてこない。さっさと課題を取りにいって、さっさと帰ろうと思っていたのに、いつもの不運を発動して、ぼくは保健室に連れてこられていた。


「失礼しまーす、ってあれ?先生いないのか」
「あ、ほんとだ」
「じゃあ、数馬、あの椅子に座っててくれ。救急箱とか、あー、どこだ?」
「ぼく、場所わかるから、作兵衛は部活戻って大丈夫だよ」
「いやいいよ。おれのせいだし。しかし数馬の不運は相変わらずなんだな」
「うん、あいにくね…」


 苦笑する作兵衛に、ぼくも苦笑を返す。さっき、廊下を曲がったところで作兵衛と激突して、奇跡的にぼくだけが転んで、ついでに肘を擦りむいて、ついでに足首もひねったようだ。ぴょこぴょこと歩いているぼくに罪悪感を感じてしまったらしい作兵衛がここまで連れてきてくれた。作兵衛は昔から面倒見がいい。作兵衛も孫兵や藤内と一緒で、小学校からの付き合いだ。ついでに左門、三之助という2人も仲が良かった。クラスが分かれてからは、まったく関わらなくなっていたけど、ぼくの顔を見た途端に思い出してくれたみたいで、「数馬じゃん!」って言われた時は、それはそれは嬉しくて、涙が出そうになった。
 作兵衛に救急箱を探してもらって、ぼくは手慣れた手つきで治療をしていく。そういえば、とぼくの治療をどこからか引っ張り出してきた丸椅子に座って見ている作兵衛に、声をかける。


「作兵衛、さっき何してたの?」
「ん?…あっ!あいつら探してたんだよ!」
「もしかして、左門と三之助?」
「そうそう。あいつらさ、校内マラソンの途中でいなくなったみたいでさ、一応縄でくくってはいたんだけど、やっぱ後輩に任せるのは無理があったなあ」
「作兵衛、そんな2人が外から保健室をのぞいているんですけど」


 ばっ!と後ろを振り向いて窓を見た作兵衛には、顔が完全に見えている三ノ助と半分しか見えていない左門が見えていることだろう。作兵衛がずんずんと窓に近づいていって、閉まっていた窓を開け放つと、左門がぼくを見て「数馬久しぶりだなー!!」とぴょんぴょんと跳ねながら、元気に手を振ってきた。相変わらずだな、と思って苦笑いを浮かべると、そんな左門の頭に作兵衛の拳が落ちた。うわあ痛そう。


「いってええええ!何すんだよ作兵衛!!」
「どこ行ってたんだよ馬鹿野郎!後輩に迷惑かけんな!」
「数馬ー、また怪我したのか?」
「うん、ちょっとね」
「三之助、聞いてるのか!?」
「聞いてませーん」


 怒りでわなわなと震えている作兵衛を気にしない2人はある意味すごいと思う。三之助も作兵衛の拳骨を落とされ、左門と2人で頭を抱えながら作兵衛に文句を言っているけど、完全に煽っているだけじゃないかな。苦笑いを浮かべたまま、さっさと治療を終えたぼくは救急箱を片づけようとして、立ち上がる。2、3歩歩いたら、突然足首に痛みが走って、ぐらっ、と傾いた体を素早く作兵衛が支えてくれた。お礼を言うよりも早く救急箱を奪われ、いつの間にか保健室に入って来た左門に腕を引かれ、椅子に座らされる。三之助がぼくの頭を撫でる。優しいなあ。ぼくは嬉しくなって、へへ、と笑ってしまった。さっきまで左門が座っていた椅子に満面の笑みを浮かべた左門が座って、その後ろで作兵衛が呆れた顔をしている。


「なんか数馬と話すの久しぶりだなー!」
「クラス離れてからなかなか遊ばなくなったしな」
「確かに。数馬、存在感薄いし」
「三之助、お前それは言っちゃいけねえよ…」
「事実だからぼくは気にしないよ…」
「友達できたかー?」
「あ、うん。実は最近友達ができてね、クラスとか知らないんだけど、お昼はいつも屋上で食べてて、」
「え?屋上?」
「え、うん?」


 左門のハーフパンツから出ている膝を見ていた視線を上げると、左門と作兵衛が不思議そうな顔をしていた。振り返れば、三之助も不思議そうな顔をしている。ぼく、何か変なこと言っただろうか。首を傾げるぼくを見て、作兵衛が言った一言がぼくは信じられなかった。


「何年か前にここの生徒が飛び降り自殺してから、屋上は立ち入り禁止になってるはずだけど」






 作兵衛たちと別れてからひとり向かった屋上へ続く扉は、いつもは見ない重い南京錠で堅く閉じられていた。









120916
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