昨日、孫兵のことを名字くんに話したら、名字くんは「おお、三反田のくせに頑張ったじゃん」と言って、嬉しそうに笑ってくれた。ぼくが小学校の頃の話をするのを名字くんは嫌な顔ひとつせずに聞いていてくれた。嬉しくなって、いっぱい話していたら時間はあっという間に過ぎて、昼休みなんてあっという間に終わってしまった。もう一度名字くんのクラスを聞いたけど、「さあねー」と言って決して教えてくれなった。悔しい。どうにかして今日こそは名字くんのクラスを聞き出してやろうと思って、さっきからその方法を考えているんだけど、どれを試してみても駄目な気がしてきた。名字くんにしつこくすると嫌われそうだしなあ。そんなぼくは今、体育の授業を見学中です。顔面にバレーボールを受けて、鼻血を出したからです。自分の不運具合に呆れる。
 体育館の端っこで体育座りをして、みんながバレーをしている様子を眺めていると、突然声をかけられて、思いっきり肩が跳ねた。昨日から驚かされてばっかりだ。


「…大丈夫?」
「う、うん。びっくりしただけ。…あ、」
「ん?どうした?」
「いや、何でもない…」


 顔を上げて見えた顔に見覚えがあった。藤内だ。小学校のときからずっと同じクラスの、とても真面目で一生懸命なクラスメイト。藤内はぼくの隣に足を投げ出すように座って、ぼくが見ていたものと同じものを眺めた。どうして藤内がぼくに話しかけに来たのかがわからなくて、ぼくは緊張でどきどきしていた。開けっぱなしの窓から風が入ってくる。バレーの試合は後半戦に入った。


「なんか、最近急に雰囲気変わったな」
「う、えっ、そうかな?」
「うん。先週くらいまではすごい暗い顔してたよ、数馬」
「えっ、本当?」
「すごかった。このまま死ぬんじゃないかと思った」


 藤内のその言葉にぎょっとして、藤内の横顔を盗み見ると、何でもないようなことのように話していた。だから、まあ、何でもないことなんだろうと思い直して、ぼくは再びバレーに目を向けた。このクラスはどちらかといえば運動部が多いせいか、バレーがやたら白熱している。…ぼく、見学でよかったかもしれない。


「大丈夫、生きてるし」
「…数馬、なんか、ごめん」
「え?なんで藤内が謝るの?」
「数馬が暗い顔してるの気づいてて、何もしなかったから、おれ、」
「そんなの、藤内がそうやって気にしててくれただけで、ぼくは嬉しいよ」


 ぼくは思わず笑みを浮かべた。藤内は真面目だから、こうやってぼくのことを気にしてくれる。正直、名字くんは素直じゃないというか、言葉が優しくないというか、直接的にぼくを心配してくれたりなんてことはしない。って、いう言い方をすると、ぼくがただ心配されたいだけの奴みたいになるんだけど、今まで人との関わりがなかったぼくからすれば、その人が抱いている感情が同情や憐れみだとしても、今は何だっていい。そんな人とうまく人間関係が築けるとは思わないけど、ってなんか名字くんに感化されてきている気がする。
 スマッシュが綺麗に決まって大はしゃぎしているぼくのチームをおお、と思いながら見ていると、藤内が突然ぼくの頭を軽くはたいた。何かと思って藤内を見れば、怒っているような悲しんでいるような、なんとも言えない表情をしていた。


「どうしたの藤内」
「そんな悲しいこと言うなよ!友達だろっ!?」


 その一言に、ぼくは大きく目を見開いた。そしてじわじわと顔が赤くなってきている藤内をみて、ぼくは思わず噴き出した。自分で言って恥ずかしくなって、それでもぼくと友達だと言ってくれて、ぼくの心は物凄くあたたかくなっていた。


「あはは、藤内顔真っ赤!」
「笑うなよ!おれ、真剣に言ってるのに!」
「ごめんごめん、そうだね、友達、うん、ありがとう、藤内」


 そう言って笑いかければ、藤内も照れたように笑ってくれた。









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