10000打御礼! | ナノ


 君が笑えば永遠が見えた



「本日より喜三太様の手となり足となり、この風魔一族の繁栄を手助けさせていただきます、名字名前です。以後手駒としてお使いください」


 目の前に座っているこの方は、今この瞬間から私の主となる、幼き頃の幼馴染。深々と頭を下げ、決まりの口上を述べる私に落ちる視線は、痛い。しばらくの沈黙の後、「顔、上げて」とか細い声が二人きりの部屋に響く。私はゆっくりと顔を上げ、我が主の目を真っ直ぐに見据える。悲しそうに歪むその表情に、私は情けなく眉を下げ、わずかに微笑む。そしたら主の顔はますます歪んで、今にも泣き出しそうなその表情は、昔と何も変わっていない。


「名前、どうして、君は僕の幼馴染でしょう?」
「それはまた別の話です、喜三太様。これからは私は貴方様の、」
「やめてっ、名前、どうしてそんな他人みたいな話し方するの?普通に、昔みたいに話してよぉ…!」
「…貴方様は、私の主となるのです」
「名前が僕の下に就くというのなら、僕は風魔の跡なんて継ぎたくない!」


 私との間にあった距離と一気に詰め、私の胸ぐらをつかんだ主は、眉間にぎゅっと皺を寄せ、私を睨みつける。ぎりぎりと締まる衿が喉を圧迫して苦しい。ああ、しばらく会わないでいる間に、立派な忍者にお成りになられたようだ。ぽたり、と私の頬に落ちた主の涙に、私は静かに微笑む。途端、主はくしゃり、と顔を歪めた。そして、昔と同じように私の胸元に顔を埋めて、堰を切ったように大粒の涙をこぼした。
 六年。それはあまりにも長過ぎた。彼が風魔を離れ、忍術学園に転校してしまったことで、私たちが会えないで、いや、会わないでいた間に、私は随分と変わってしまった。世を知った。闇を知った。戦を、飢えを、痛みを、苦しみを知った。この世はどうにも生きづらい。ならば、いつか必ず風魔に帰ってくると信じていた、この純粋で穢れのない主をお守りするために、私はこの手を紅で汚すことを選んだ。主のためなら、この命、捨てても惜しくはない。その覚悟など、とうの昔に決めていた。
 それなのに、この泣き虫は。


「名前のばか」
「喜三太様、」
「僕がいくら頻繁に文を出しても、一度も返事をくれたことはないし、与四郎さんの口止めはしてあるし、あっちにいる間、僕がどれだけ名前のことを心配していたかも知らないんでしょう?酷い、名前は酷いよ」
「元からです。知っていたでしょう?」
「一緒に風魔にいたころは、もっと優しかったもん」
「あれ?そうでしたっけ。何せ六年も前のこと、少し記憶が薄れてしまいました」
「…名前のばか」


 ぐすり、と鼻を鳴らす主の髪をゆるゆると撫でる。びくっ、と肩を揺らした主は、私の手が髪を梳いていくのに合わせだんたんと落ちつき、私の衿を掴んでいたままだった手を離し、完全に私の膝に乗る形となる。私と比べても小柄なその体を抱え直すと、主も私の首に腕を回し、ぎゅうと密着してくるものだから、私は思わず笑ってしまった。甘えたなのは、今も変わらないらしい。私はその耳元に唇を寄せて、主だけに聞こえるように囁く。幼き頃の約束を。


「再会する日があれば、それより先はもう二度とそばを離れないと約束させたのは、お前だろう、喜三太」
「…名前、覚えてたの?」
「お前と違って、俺は昔から優秀だったからな。この地位に就くために必死になって優等生を演じたんだぜ」
「僕の、ため?いつ戻ってくるかもわからないのに?戻ってこないかもしれなかったのに?」
「ああ、馬鹿で可愛い飼い犬だろ?」
「…うん、すごく嬉しいよ」
「でもこの地位に就いたからには、お前は俺の主だし、俺はお前の手駒だ。それはわかれ」
「…うん、わかった」


 明らかに不満そうな声色で肯定の返事が返ってきて、俺はくくっ、と笑い声が漏れる。喜三太が腕の力を緩め、涙で濡れた目で俺を見つめてくる。何か言いたげな顔だが、何を言っても俺が折れないことも、どう足掻いてもこの関係が変わることがないこともわかっているのだろう。しゅん、と頭を垂れる姿は俺よりよっぽど犬のようだ。その柔らかな髪に指を通しながら、俺は緩く微笑む。


「話し方とか態度が変わっても、俺たちが幼馴染で、親友であることに変わりはないんだ。身分の差とかはそんな悩むことじゃない」
「…名前、相変わらず格好良いねえ」
「だろ?」


 そうして、六年振りに見た喜三太の笑顔に、俺も笑顔を返した。








120922

シクラメンさまへ!
10000hit企画に参加していただき、ありがとうございました^^*
そして大変長らくお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。
喜三太かわいいです、主従おいしいです、もっと主従関係でもだもださせたかった…!
少しでもお気に召していただければ幸いです。
素敵なリクエストありがとうございました!




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