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 昼下がりの出来心



「あ、名前先輩だ」


 大嫌いな華の授業をサボって、わたしは忍たま長屋の裏にある木の上にいた。ここはわたしのお気に入りのお昼寝スポットだ。人気もないし、木が生い茂っているおかげで先生にも見つかりにくくて重宝している。今までだ誰にも見つかったことがなかったから、突然下からかけられた声のせいで、わたしは危うく木から落ちるところだった。おそるおそる下を見下ろすと、そこには三年ろ組の次屋三之助がいて、いつもの飄々とした顔でこちらを見上げている。何故こんなところに、と思うも、わたしと迷子になっている次屋の遭遇率はかなり高い。次屋を連れていくたびに富松に感謝されるのも珍しくない。次屋が無自覚方向音痴なのは有名な話だし、今日もどうせ教室に向かうつもりが、こんなところに行きついてしまったとか、そんな感じだろう。
 わたしはにんまりと笑って、次屋を手招く。見つかってしまったなら、共犯者にするだけのこと。


「こっちにおいでよ、次屋」
「いいんすか」
「いいよー」


 わたしがそう言うと、次屋はいとも簡単に木に上がり、わたしの頭の横に腰掛けれる。おお、そこに座られると、なんだか寝づらいんだけどなあ。じっとわたしの顔を覗き込んでくる次屋の視線が、どうも居心地悪い。仕方なく身体を起こして、次屋の隣に座り直す。普段ならあり得ない高さからみる見る忍術学園は、何も変わりなく騒がしい。今日も平和だ。ぐ、と身体を伸ばし、小さく欠伸をこぼす。昼食を食べた後のこの時間は眠くて仕方がない。


「次屋、授業はいいの?」
「それ、名前先輩に言われたくないっす」
「あはは、そうだねえ。でも次屋はまた迷子になっていただけでしょう?」
「迷子じゃないっすよ。教室が逃げるんです」
「ふふ、そう、それは大変だね」


 わたしは笑うと、次屋はきょとんと首を傾げた。いつも次屋を探してくれる富松は次屋をちゃんと叱るから、こういう反応が珍しいのだろう。わたしは次屋の無自覚方向音痴のせいで何か迷惑をかけられたわけでもないし、学園内でしか会わない次屋を特別心配したこともない。だからこんな人ごとのような反応になってしまう。冷たい女だって?わたしはくのたまだもの、そういうものだ。
 投げ出した足をぶらぶらと揺らし、木の隙間から長屋の窓を眺める。あ、一年は組の良い子たちだ。かわいい。にこにこと笑みをこぼしていると、隣から刺さるような視線を感じた。視線を移せば、やたら熱っぽい視線でわたしを見る次屋が。


「あー…、次屋?」
「名前先輩、俺、初めてそんなこと言われました」
「あはは、それはよかったね」
「俺、いつも作兵衛とかに勝手にいなくなるなとか、迷惑かけんなとか言われて、でも俺は迷子になってるつもりはないし、迷惑だってかけてないし、なのになんでそんなこと言われんのかってすごく不思議で、…だから、」
「ちょ、ちょっと待って、次屋」
「待てません。俺と名前先輩、よく学園内で会いますよね。きっとこれって運命だと思いません?」
「残念だけどわたしはそう思わないから、この手を離してくれる?」
「嫌です」


 次屋はわたしの腕を掴み、ぐっと顔を寄せてくる。ばかやろう!と心の中で罵り、わたしは次屋の顔を掴んで、ぎゅうううと押し返す。が、年下とはいえ、相手は男の子。しかも三年生にしては体格のいい次屋に力で押し切られる前に、わたしは木から飛び降りた。次屋が「あ、」とわたしの方に手を伸ばしてくるのも器用にかわす。逃げるが勝ち。この際、今が授業中だとかそういうのは置いておこう。次屋が追いかけてくる足音を聞きながら、角を曲がり、その直後に屋根に飛び上がれば、わたしと同じように角を曲がった次屋はきょろきょろしたあと、わたしがいるところとはまったく違う方向に走り出した。よし、これでしばらく帰ってこない、はず。次屋が方向音痴でよかった。
 わたしはそのまま屋根の上で中断していたお昼寝を再開し、ごろごろと寝転んでいると、ふと何かの気配を感じた。がばっ、と起き上がって見た先に、勝ち誇ったように笑う次屋が。


「ほら、やっぱり運命なんすよ、名前先輩」


 ああ、わたしは厄介なのに目をつけられてしまったようだ。諦めたように笑ったわたしに、次屋は手を伸ばした。
 恋なんて、大抵出来心から始まるというでしょう?








120720

天然水さまへ!
10000hit企画に参加していただき、本当にありがとうございました^^*
攻めて、るのか…?みたいな中途半端なお話になってしまい申し訳ありません。
少しでもお気に召していただければ幸いです。
素敵なリクエストをありがとうございました!




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