10000打御礼! | ナノ


 ありがとうの日々を



「名前」


 酷く優しい声がわたしを呼ぶ。それとほぼ同時にきり丸の腕がわたしの体を包み、背中にきり丸の体温が触れる。いつもはこんなことを滅多にしない彼の突然の行動に首を傾げ、後ろを振り向くと、きり丸が優しい顔で微笑んでいた。そして近い。思わぬ近さにかああ、と体が熱くなる。慌てて顔を元に戻そうとするも、いとも簡単に顎を掬われ、ちゅ、と唇に触れた感触に、わたしは発狂する。


「うわあああやめて不意打ちとか心臓もたないから!」
「いいじゃん、減るもんじゃないし」
「確実にわたしの寿命が縮んでる気がしますが…!」


 わたしが必死にそう言うと、きり丸は口元に手の甲を当てて、くく、と笑った。漫画みたいなしぐさだけど、さまになり過ぎて心が折れる。ますます上がる体温と心臓の音をどうにかしてばれたくなくて、わたしはきり丸の腕の中で膝を抱えて小さくなってみた。膝に伝わる鼓動が、早い。きり丸はまたわたしの背中にくっついて、わたしが見ていた雑誌に手を伸ばして、勝手にページをめくる。耳元で聞こえる静かな息使いに、いちいち心臓が反応する。熱い。


「またおれに内緒で雑誌なんか買って…、だめって言ったよな、おれ」
「うう…」
「しかもおれが載ってるやつだし、なに、本物だけじゃ足りないと?」
「ひいいい違いますごめんなさい本物だけで十分です!」
「だったらもう買うなよ。わかった?」
「はーい」


 はい、おしまい。満足そうにそう言って雑誌を閉じてしまったきり丸は、そのまま膝ごとわたしの体を抱きしめてきて、わたしもきり丸に体を預ける。下からちらりと盗み見てみれば、嬉しそうに緩んだ顔をしたきり丸と目が合って、わたしも同じような笑みを浮かべた。
 きり丸は少し前に美人なお姉さんにスカウトされて、それからときどき雑誌のモデルをしている。本格的に専属モデルにならないかと声をかけられているにもかかわらず、それを何故か断っている、らしい。詳しいことは教えてくれないから、よくわからないんだけどね。わたしのバイト代だけじゃあ二人で生活するには厳しいし、助かることこの上ない。ん?しがない大学生のバイト代と一緒にしちゃだめか。いやあ、ほんと、何にも考えずにこの生活を始めちゃったからなあ。その時はまさかこのイケメンさんと付き合うことになるとは思っていなかったけど。


「あ、もうこんな時間。きり丸、今日の夜ご飯は何にする?」
「…なんか」
「え、なに?」
「名前」
「うん、どうしたの?」
「…結婚、しよっか」


 ぽかん、と口を開けたわたしに、きり丸はふわりと優しく微笑む。するり、と頬をきり丸の綺麗な指が撫でる。一度治まった熱がぶり返した。思わず、ぎゅ、ときり丸の服を握ると、そのまま優しく引き寄せられて、抱きしめられた。きり丸の心臓の音が聞こえる。わたしと同じくらい早い鼓動が。髪をふわりふわりと撫でる大きな手に、くらくらする。


「随分、急なプロポーズですね」
「今言いたくなったんだから、仕方ねえじゃん」
「あ、でも今すぐはちょっと厳しいかも。わたし、まだ学生だし」
「わかってる。これは予約な。これで名前の未来はおれのものだ」
「う、わあもうどうしよう、にやにやが止まんないんですけど」
「どれ、見せて?」
「そういう意地悪ほんといらないから!勘弁してください!」


 また顎を掬われそうになって、わたしは慌ててきり丸の胸に顔を埋める。そしたらきり丸が頭上でくく、と笑う。その楽しそうな声に、わたしは笑みをこぼし、幸せをかみしめるのです。そして耳元の髪をかき上げられて、こめかみにキスされた直後、きり丸の低い声がわたしの鼓膜を優しく揺らした。


「名前、家族になってくれて、ありがとう」


 その言葉に再び発狂したのは言うまでもない。








120714

十咲さまへ!
10000hit企画に参加していただき、本当にありがとうございました^^*
成長きり丸といちゃいちゃさせることができて、本当に楽しかったです!
プロポーズ部分でお話が終わってしまい、本当に悔しいのですが、仁科の力量ではこれが限界です…、申し訳ありません。
少しでもお気に召されれば幸いです。
素敵なリクエストをありがとうございました!




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