10000打御礼! | ナノ


 幸福な夢を見る



「風邪…?」
「…たぶん」


 ベッドに横たわり、布団を鼻のあたりまで引き上げて、わたしの顔を覗き込んできた兵助くんを見上げた。心配そうに眉を下げ、「ちょっと、ごめん」と言って、わたしの額に大きな手を乗せる。食材の買い出しから帰ってきたばかりの兵助くんの手がひんやりとしていて、熱くてだるい体には、すごく気持ちいい。ゆるゆると目を閉じるけど、その手はすぐに離れていってしまった。またゆるゆると目を開けると、呆れたような顔をした兵助くんと目が合う。うう、怒られる。


「だからあんまり薄着するなって言ったのに」
「だってこんないきなり寒くなるなんて思わないじゃん」
「名前さんがめんどくさがって、衣替えしなかったんだろ」
「だってまだ夏服でもいけると思ったんだもん」
「毎日寒い寒い言いながら帰ってきてたくせに」
「だって、」
「言い訳しない」


 ぴしゃり、と言われてしまって、わたしはぶすぶすといじけながら口を閉ざす。睨みつけてみても意味はないらしく、兵助くんは呆れたようにため息を吐いた。そして兵助くんが来てから常備されるようになった救急箱から熱冷ましのシートを取り出し、それをわたしの額に丁寧に貼ってくれる。それの冷たさにはあ、といつもより熱い息を吐き出す。だるい。熱い。寒い。喉も痛いし、頭も痛い。最悪。ごそごそのろのろと体の向きを変え、体を丸める。ぎゅっと目を閉じると、少し頭の痛みが落ち着いたような気がする。もう一度はあ、とため息のような呼吸をすると、わたしの頭を大きな手が撫でてくれた。何度か往復するそれに、ほわっとした気持ちになる。ゆるゆると目を開けると、兵助くんがまた心配そうにわたしの顔を覗き込んでいた。


「名前さん、今日何か食べた?」
「食べて、ない」
「食べれそう?」
「…食べたくない」
「何か食べないと薬も飲めないのだ。名前さんが食べれそうなもの作るから、少し待ってて」


 兵助くんが立ち上がってキッチンに向かう。たぶん帰ってきた時のまま放り出していたビニール袋から何かを取り出す音がして、そのすぐあとに聞き慣れた兵助くんが料理する音が続く。自分以外の人がいるというのはとても心強い。兵助くんがいなかったときにも季節の変わり目で風邪を引いたことがある。あのときは酷かった。だるくて動きたくないし、ご飯を作ろうにも材料もないし、気持ちが弱ってしまって泣きそうになって、大げさに言えば絶望を味わっている気分だった。そんなので風邪が良くなるわけもなく、結局1週間寝込んだ。今はこうやって兵助くんが面倒を見てくれる。嬉しい。風邪で体温が上がっているせいもあって、心がほかほかする。目を閉じながらそんなことを思っていると、かちゃかちゃ、と食器がぶつかる音がした。はやいなあ、と思いながら目を開けると、ぼやける視界の中で、兵助くんがベッドにテーブルを近づけているのが見えた。テーブルの上にはほかほかと湯気を上げるお皿。おいしそうな匂いがする。やっと見えたお皿の中身は、お豆腐でした。


「こんなときまでお豆腐…」
「風邪のときは一刻も早く内側から体をあたためる必要があるのだ。豆腐は腫れた喉でも飲み込みやすいし、保温性もあるから体が冷めにくい。うどんでもいいんだけど、今うどんがないから、これで我慢してくれ」
「ううん、大丈夫、ありがとう」
「名前さん、起きれる?」
「ん、へーき」


 のそのそと体を起こすわたしを兵助くんが支えてくれる。それにありがとう、とお礼を言うと、兵助くんはやっと笑ってくれた。そのあとは戦いだった。お豆腐を食べさせようとしてくれる兵助くんと、この年にもなってあーんなんてできない、自分で食べれると断るわたしの攻防戦。結局押し切られてあーんしてもらい、やけに時間のかかった食事が終わったのは、それから30分後のこと。お豆腐効果のおかげか、体がほかほかしているわたしは薬を飲み、ベッドに横になると自然と瞼が落ちてくる。兵助くんがいつものようにご飯を食べているのを眺めていたはずなのに、気づいたら眠っていたらしい。ふと目が覚めると、部屋は真っ暗だった。が、違和感がある。と気付いた途端、体温が急上昇した気がした。


「どうして一緒に寝てるの兵助くん…!」


 わたしの体を抱え込むようにしてすーすーと寝息をたてている兵助くんの綺麗なお顔が目の前にある。暗闇にだんだん目が慣れてくるのと余計に心臓がばくばくと鳴る。抜け出そうにも抜け出せなくて、それでも一生懸命もぞもぞしてみるが、「んんっ、」とやけに色っぽい声を出した兵助くんに抱き寄せられて、あえなく失敗。ゆるゆると目を開けた兵助くんと至近距離で目が合う。心臓爆発しそうなんですけど。


「名前さん、」
「は、はははいっ!」
「名前さん、あったかいのだ」
「は、い?」


 へにゃあ、と緩く微笑んだ兵助くんはわたしの頭を自分の胸元へ抱きかかえ、再び目を閉じてしまった。緊張で目が覚めてしまっていたはずのわたしも、兵助くんの体温の心地好さにはあながうことはできず、そのまま朝まで爆睡した。そして寝起きの兵助くんの破壊力に、丸々1日兵助くんの顔をまともに見れないのだった。






120927

にゃんこさまへ!
10000hit企画に参加していただきありがとうございました^^*
大変長らくお待たせしてしまい、本当に申し訳ありません。
風邪のときはお豆腐とうどんがいいのは本当です。
消化が良くてすぐにエネルギーに変わるからと、保温性が高いからだとか。
風邪には5い!と覚えましょう!笑
素敵なリクエスト、ありがとうございました!



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