10000打御礼! | ナノ


 促しただけの愛



「あ、ああああのっ、名前ちゃん、!」
「タカ丸さん、どうしたんですか?」


 にこり、と微笑んだ名前に、タカ丸さんは湯気が出そうなくらい顔を真っ赤に染めて、口をぱくぱくとして、結局何も言えず、「何でもない…」と俯いてしまった。名前はきょとんと不思議そうにしながらも、「何かあったら声かけてくださいね」と言って自分の作業に戻る。それを見ながら俺は今日も呆れ、深いため息をついた。
 我らが火薬委員会で普段の光景になりつつあるこの光景に、伊助も三郎次も、もちろん俺もじれったくて仕方がないというのが正直なところ。タカ丸さんが名前を好きなのは、誰が見ても明らかだった。他の女の子に対しては普通に対応できるくせに、なぜか名前の前になるとどうしたってくらい慌てふためいてしまって、まともな会話もできていない。名前はくのたまにしては大人しくて、くのたまにしては優しい良い子だから、そんなタカ丸さんの態度にも笑顔を振りまいてくれるわけだ。他のくのたまだったらこうはいかない。絶対にいかない。
 そして今日も、食堂にて委員会後の恋愛相談が始まる。


「兵助くーん、今日も名前ちゃんと話せなかったよう…」
「情けない。タカ丸さん、情けないです」
「ううう、だって名前ちゃんの笑顔なんて見ちゃったら話せるわけないじゃないかあ」
「火薬倉庫の中の暗さで照れてるようじゃ、日の下で名前に会ったときはどうなるんですか。あの子、俺たち火薬委員会見かけたら必ず笑って走り寄ってきてくれるじゃないですか。まさか逃げたりしてないですよね、ね?」
「し、してない!けど、目は見れない!」
「名前を傷つけたら許しません」
「はっ!まさか兵助くんも名前ちゃんのことを…!」
「違いますから今すぐその鋏をしまってください」


 鋏を両手に持ったタカ丸さんにはっきりとそう言うと、「ああ良かったあ。いくら兵助くんでも、名前ちゃんのことは譲れないよー」とふにゃふにゃ笑って、鋏を懐にしまった。譲るも何も、名前はそもそもタカ丸さんのものではない、ということに本人は気づいていない。これじゃあもし付き合えたとしても、タカ丸さんの嫉妬深さに呆れられちゃうんじゃないだろうか。でも名前だし、それはないか。


「まあ、それはいいんですけど、タカ丸さんもそろそろ焦った方がいいと思います」
「え、え、どういうこと?」
「名前、モテるので」
「………」
「敵は多いですよ。でも他の奴らに比べたら、タカ丸さんは同じ委員会な分、他の人より話す機会も多いですし、好印象を持っていることは確実かと」
「ほ、ほんと?でも僕、名前ちゃんを前にするとうまく話せなくて、つまんない奴とか思われてるかも…」
「なら、自分の得意なことを話してみればいいんじゃないですか」
「得意なこと…、あ、」
「タカ丸さんの得意なことは、女の子から見ても、とても興味深いことだと思いますけど」


 タカ丸さんは俺の言葉を聞いた途端にきらきらと顔を輝かせた。「健闘を祈ります」ということで、その日は解散した。
 が、次の委員会のとき、俺はその言葉を撤回したくなった。というか、名前、ごめん。こんなことになるとは思ってもみなかった。俺は目の前で名前に掴みかかる勢いで話かけているタカ丸さんに引きつつ、何事もなかったように自分の作業をするしかなかった。


「名前ちゃんの髪、痛み過ぎだよ!女の子なんだからもっと髪は丁寧に優しく扱わないと!」
「ご、ごめんなさい…」
「これからは僕が髪の手入れしてあげるからね」
「でもそれは他のくのたまの子に悪いから、たまにでい、」
「駄目!名前ちゃんは世界で一番可愛いんだから、僕はそのお手伝いがしたいの!」
「た、タカ丸さん…!」

「えええ、どうしたんですか、今日のタカ丸さん」
「この前までのヘタレはどこに消えたんですかね」
「名前が髪の手入れに疎いとは盲点だった…。でも 名前も照れているし、結果オーライなのかも!」
「いや、あれじゃ名前先輩が可哀想ですよ…」


 その日から意気揚々とくのたま長屋に通うタカ丸さんを見かけるたびに、俺たち火薬委員会は複雑な気分になるのだった。本当に名前ごめん。








120925

華丸さまへ!
10000hit企画に参加していただき、ありがとうございました^^*
大変長らくお待たせしてしまって申し訳ありません。
そしてあんまり主人公ちゃんが出てこないっていう、すみません…。
少しでもお気に召していただければ幸いです。
素敵なリクエスト、ありがとうございました!



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