10000打御礼! | ナノ


 砂糖とミルクはお好みで



「名前、名前、これ見て!ほら!」


 ぐいぐいとわたしの腕を掴んで離さない雷蔵くんにうんざりしながら、わたしはもうめんどくさくなって引かれるままに歩く。そんなわたしの後ろを困った顔をしながらついてくる彼は、わたしの彼氏です。おかしい、おかしいよこれ。どういう状況なの。そして実はこの状況は今回が初めてではない。あ、ちなみに言っておくけど、雷蔵くんとバイト先で出会って、あのとんでもない話をされた日に、「わたしには現在付き合っている人がいるのでごめんなさい」って言っています。なのに、デートの日はなぜか必ず現れるし、家で過ごそうにも雷蔵くんに教えた覚えもないのにメールと電話がすさまじくて、怖すぎて、電源切ってたら、教えた覚えもないのにわたしの家まで押し掛けてきて、泣いて泣いて、それはもう泣きじゃくって、逆にわたしたちの方が気を使ってしまうレベル。雷蔵くんの執念、完全に舐めてた。
 そして今日も当然のようにわたしたちのデートについてきている雷蔵くんは、カフェで休憩している途中でトイレに行って、今はやっと2人きり。ありえない。彼はすっかり疲れた表情で、ほとんど空っぽのコップをストローで吸っている。


「あれ、どうにかできねえの」
「できてたらすでにやってるよ」
「別れてほしいなら別れろって言えばいいのに、何も言ってこないんだもん。それはそれで、精神的にくる」
「え、なんかごめん。雷蔵くん、悪気なくやってるしね、絶対」
「そもそも名前がちゃんと断らないからいけないんだろー」
「いや、ハチ先輩に呆れられるくらいはっきり断ったし。そのあとの後始末もハチ先輩に押しつけて帰ってきたし。でも駄目だ。イケメンずるいよね」
「おい」


 そんなふざけたことを言いつつ、わたしたちは同時にため息を吐き、これからどうするかについてぽつりぽつり話す。予定ではもう少し買い物してから、よさげな居酒屋で飲んで、彼の部屋に帰るつもりだったんだけど、問題は雷蔵くんがどこまでついてくるか、だ。雷蔵くん、未成年だし、いつもさすがに夕方くらいには帰る、帰らせる。最終的に雷蔵くんのお母様を呼ぶ。これ、今のところ最強。ハチ先輩は使えなかった。あの人、なんだかんだ雷蔵くん派だから、甘いんだよね。わたしにも甘いけど、雷蔵くんにはそれ以上だ。まったく、迷惑してるのはわたしたちのほうだというのに。
 いつものようにだらだらと話をしていて、わたしはふと気付く。あ、と声を上げたわたしに彼は不思議そうに首を傾げた。


「なに?」
「雷蔵くん、遅くない?」
「ああ、そういえば。鞄も持っていってたし、もしかしたら帰ったんじゃね?連絡とか来てない?」
「んー、何も来てない。本当に帰ったのかなあ」
「だったら好都合じゃん」
「まあ、確かに。でも、あの雷蔵くんが黙って帰ると思う?毎回わたしに抱きついてから帰るあの雷蔵くんが、だよ?」
「…ないな、ないない。じゃあ、一体なにして、」


 窓の外に視線を向けた彼は、ああ、とでも言いたげな顔で言葉を切った。わたしもその方向を見てみると、可愛い女の子に囲まれて困ったように笑っている雷蔵くんを見つけた。ああ、イケメンさんは大変ね。わたしたちは顔を見合わせて、緩く笑い合った。そして荷物を持って立ち上がる。向かう先は雷蔵くん。わたしたちを見つけた雷蔵くんは泣きそうな顔をして弱弱しい声で「名前…」とわたしの名前を呼んだ。手招きすると周りの女の子たちに申し訳なさそうにしつつも、こちらに駆け寄ってきて、わたしの手を握る。彼が女の子たちに「彼、人見知りなんで、すみません」と言って、さりげなく雷蔵くんを背中に庇っている。ああ、こういうところが好きなんだよなあ。


「さて、行くか」
「雷蔵くん、大丈夫?」
「うん、大丈夫…、2人ともごめんね」
「気にしないで。でも、どうして外にいたの?」
「あ、えと、実は2人にプレゼントをあげたくて、それを買いに行ってたんだ」
「え、プレゼント?」
「うん。今日、2人の記念日だってハチが言ってたから、はい、これ」


 そう言って雷蔵くんがわたしに手に持っていた紙袋を差し出した。思わず彼を見れば、彼もぽかんと口を開けている。もう一度雷蔵くんを見れば、にこにこと笑っている。え、あれ、この子、わたしが好き過ぎて転生ってやつをしていたんじゃなかったっけ?まさか雷蔵くんから祝ってもらえると思っていなかったわたしも、きっと彼と同じような顔をしているのだろう。雷蔵くんがふふ、と笑った。


「ぼくは名前に付き合っている人がいようと、ずっとずっと名前が好きだよ。でもね、名前が幸せそうに笑っているのを見るのも好きだから、今はこのままでいいの。いつかは必ずぼくのものにしてみせるけどね」


 ぎゅ、と少し力の入った雷蔵くんの手をわたしも握り返して、「ありがとう」と笑う。だいぶおかしいところはあるけど、この子はすごくすごく優しい子だから、わたしも彼も、本気で追い払うことができなくて、本当に困る。







120923

名無しさまへ!
10000hit企画に参加していただき、ありがとうございました^^*
大変長らくお待たせしてしまって、本当に申し訳ありません。
そして雷蔵さんが思ったよりもいい子になりました、笑
最初はもっとヤンデレ要素を入れるつもりだったのですが、いつの間にかこんな展開に、←
でもきっと雷蔵さんは優秀な順忍だったから、相手の心に取り入るの上手だと思うんです。
きっとこれからが本領発揮!←
少しでもお気に召していただければ幸いです。
素敵なリクエストありがとうございました!




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