06



 この前、雷蔵くんと二人でご飯を食べに行ったことは、ただの気まぐれだった、わけだけど、それからの雷蔵くんは、怖かった。わたしの勤務の日をハチ先輩から聞き出しているらしく、わたしがバイトの日は必ずやってくるようになった。怖い。雷蔵くんを見つけるたびにキッチンに引っこみ、黙々と作業をして、こそこそと帰るようにしている。スタッフのみんなは雷蔵くんをわたしのストーカーだと思っているらしく、それはもう協力的で、わたしはみんなに守られている。雷蔵くんには悪いけど、気まぐれで一緒にご飯なんか食べに行ったわたしも悪いけど、怖いものは怖い。そしてハチ先輩許すまじ。もう口きかない。


「あ、久々知店長、お疲れ様でーす」
「お疲れ、みょうじ。それ、今日のまかない?」
「はい。店長の分も持ってきましょうか?」
「んー、大丈夫。あとで食べるよ」


 ありがとう、と微笑んだ店長の美しさに心臓を打ち抜かれ、でれでれとにやけつつ、店長が書類をひろげているテーブルの端っこに座る。今日のまかないはトマトとツナのパスタ。おいしそう。ここの料理は何でもおいしい。バイトじゃなくても友達と遊びに来るくらいだいすき。「いただきます」と小さく手を合わせて、パスタをくるくるとフォークに巻いていると、何やら店長の方から視線を感じる。しかしパスタおいしい。すごくおいしい。もぐもぐと食べながら店長の方を見ると、微笑ましいものを見るような目でこちらを見ている店長と目が合った。なんだ?


「なんですか?」
「ん、ついに雷蔵と付き合ったんだなあ、と思って」
「すいません誤解です付き合った覚えはありません」
「でもこの前待ち合わせして一緒に帰ってたじゃないか」
「あー、うー、あれはー、ちょっとした気まぐれでしてー」
「みょうじ、案外小悪魔なんだな」
「店長、冗談はやめてください…」


 案外おちゃめな一面がある店長が、やっぱり美しく笑っている。スマホをいじっていると、尾浜から「今日の夜暇だったら、ハチとおれんちで飲もうよ!」というメールが来ていたので、「いやだ」と返信しながらもぐもぐとパスタを食べていると、店長が椅子から立ち上がった。ホールに出るのかな、と思っていたら、なぜかこっちに来て、わたしの隣の椅子に座る。おお、何故だ!


「今、勘ちゃんからメール来てなかった?」
「え、はい、来てました、けど」
「それ、おれも誘われてるんだ。みょうじ、来る?」
「い、行かないです」
「あれ、来ないのか。じゃあ、おれもいいや」
「えええ、3人で飲みに行けばいいじゃないですか」
「みょうじとちゃんと話してみたいし」


 なんて殺し文句…!かああ、と顔が赤くなるのを感じつつ、「考えてみます」としどろもどろに答えて、わたしは店長から目を逸らした。ちらり、と視界に入ったスマホが小さなランプをちかちかと点滅させているから、きっと尾浜から返信が返ってきている。どうせあれやこれや言ってわたしを来させようとしているに違いない。何よりもわたしが恐れているのは、雷蔵くんが来るかもしれない、というところである。高校生なんだから、大学生のわたしたちとばかり遊んでないで、同じ学校の女の子と青春してればいいのに、とは、わたしの勝手な思い。もし、もしもだ、本当に600年前からわたしともう一度出会うために転生というものを繰り返しているとしたら、それはそうとうなことだ。しかも本当にその雷蔵くんのわたしへの思いを感じてしまうから、重いし、怖い。わたしは、自分を守るので必死なだけだ。
 わたしがアイスティーを飲んでいる間に、店長がわたしのパスタをつまみ食いする。尾浜で慣れてしまったその行動を何も言わずに流していると、店長が満足そうに手についたトマトソースを舐める。わあ、かっこいい。


「おいしいな、これ」
「でしょう?てか店長、こういうこと誰にでもしてると、いろいろ勘違いする女の子もいるから気を付けた方がいいと思いますよ」
「みょうじはしてくれないんだ?」
「あはは、店長とわたしじゃ不釣り合い過ぎて勘違いも何もって感じですー」
「…勘ちゃんが言ってた意味、わかったかもしれない」
「え?」
「みょうじは警戒心が薄くて、そこらへんの男にぱくっと食べられそうで、可愛いなって話」


 そう言ってふわり、と微笑んだ店長をから笑いで受け流したのはいいものの、そのあとのバイトで指切って泣いた。これからは店長も要注意人物認定します。







121002

30歳手前の、ある程度自分の顔の良さにも気づいていて、人をからかうのを楽しんでる。
こんな大人久々知いかがですか?笑


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