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 今日もまかないおいしい。トマトとかベーコンとか挟まってるサンドイッチおいしい。卵もおいしい。今日はやたらお客さんがたくさん来て、忙しくて、ご飯を食べる時間がずれ込んでしまって、おなかすいてたから、なおさらおいしい。


「…みょうじって、おいしそうに食べるよな」
「そーですか」
「そーです」


 事務室の入り口からぼーっとわたしを見ていた店長が、そう言いながらわたしの隣に座った。手にはサンドイッチが乗った皿とアイスコーヒーを持っている。店長も休憩らしい。疲れ切った様子で制服の衿を緩める店長に、眼福眼福、と顔が緩んだ。最近、店長と休憩が一緒になることが多い。どうやらこれは気のせいではなく、店長が意図的にしているらしい。ちなみにハチ先輩がいるときはだいたいハチ先輩と一緒に休憩している。まあ、店長は誰が見ても認めるイケメンだから、バイト仲間やスタッフさんの女の子の中にはあわよくば店長とお近づきに、なんて考えている人もいるかもしれないし、もともと仲のいいハチ先輩とか、いろいろあって仲良くなったわたしとかといる方が気が楽なのかもしれない。顔がいいと何かと大変ですね。
 店長とはたいした会話をすることもなく、立ちっぱなしで疲れた足をぷらぷらと揺らしながらサンドイッチを食べる。この後もまだまだバイトは続く。今日はラストまでだから、帰りは11時くらいかな。ふあ、と欠伸をした店長に、まともや眼福眼福、と笑みがこぼれた。イケメンは目の保養。


「ねむいですね」
「そーだな」
「店長、疲れてます?」
「うん」
「売上悪いですか」
「悪くない。上々」
「じゃあまたおばさんたちにつかまって、長くてつまらない話を聞かされたんですね」
「…正解」
「店長、ホール出ない方がいいんじゃないですか」
「うーん」


 眠そうに目を細めてサンドイッチを口の中に押し込んでいる店長は、ただ唸っただけで黙り込んだ。眠そう。食事が作業のようになっている店長を見守りながら、自分の分を食べ終える。サンドイッチと、シロップを入れた甘いアイスティーのおかげで、後半も頑張れそう。うん。もそもそと口を動かしている店長が、ふと思い出したように「みょうじ、雷蔵とどうなの」と口にして、わたしは心の中でまたか、とため息をついた。


「店長、その話すきですよね」
「気になるから」
「気にしないでくださいよ」
「何か報告することはないのか」
「んー、正直、もうよくわからないです」
「なにが?」
「このまま流されて雷蔵くんと付き合ってもいいような気もするし、でも600年もわたしを想ってくれている人に対してそれはどうなのって思う気もするし、みんなの言うなまえが本当にわたしのことなのかどうかも信じられないですし、最近のわたしは混乱しています」


 もし仮に雷蔵くんと普通に出会って、普通に告白されていたら、わたしは雷蔵くんの顔の良さと押しの強さに負けて、普通に付き合っていたと思う。でもそれは仮の話であって、現実は何もかも普通じゃない。普通じゃないことなはずなのに、それを当たり前のようにしている人が周りに何人もいるせいで、それが普通のことのように思えてきてしまっている。そりゃあ混乱もするよね。疑いたくもなるよね。だって普通じゃない。
 わたしの話に、ふうん、と相槌を打った店長は、サンドイッチをひとつ食べ終えたところで、脇に重ねてあった書類を引き寄せる。事務作業片手に聞くくらいなら、たいして気にしてないんじゃないの…?真面目に考えるのもめんどくさくなったわたしは、来月の休み希望を出すために、鞄から手帳を引っ張り出した。


「店長、来月のシフト表ください」
「はい」
「ありがとうございまーす」
「で、さっきの話なんだけど」
「その話まだ続くんですか…」
「雷蔵がどうしてみょうじのことをそんなに思い続けてるか、知ってる?」
「え、知らないです」
「今度聞いてみるといいよ。答えてくれるかどうかはわからないけど」


 店長が伏し目がちにわたしを見るものだから、なんだか嫌な予感がしてしまって、はあ、という適当な返事しかできなかった。雷蔵くんがわたしを好きな理由。確かに気になるけど、店長のその感じからしてあまりいいことな気がしないのはわたしだけでしょうか。






20131026

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