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「送っていくから!なまえ、送っていくから!」
「なまえ、雷蔵に送ってもらえってば!」


 カフェの前で仲良く兄弟喧嘩をしている2人に「じゃあ、わたし帰るね」と手を振った瞬間、雷蔵くんと三郎くんに必死に引き留められたせいで、雷蔵くんに送られながら家に向かっています。結局三郎くんはひとりで帰ったし。なんでだ。わたしの今日を返してほしい。雷蔵くんはとても上機嫌だけど。三郎くんも「やってやったぜ!」みたいな顔してたけど。まだ外はとても明るい。


「この間の三郎くんが演技だったっていうのはよくわかった」
「いや、その、なんていうか、ごめんね」
「…ほんと、雷蔵くんの弟とは思えない」


 高校生を連れて歩いているところを大学の友達に見られたくないなあ、と思いながら、いつもの帰り道を雷蔵くんと並んで歩く。大学生らしき人はちらほら歩いているけど、今のところ知り合いとは会ってない。どうにかこのまま家まで帰れますように、と神様に念を送りながら、雷蔵くんと他愛もない話をする。そういえば雷蔵くんとこうして話をするのは久しぶりな気がするなあ。


「あ、そうだ、なまえ、今度の日曜日空いてる?」
「今週?あー、バイトが早番で入ってるかなー。何かあった?」
「ううん、2人で遊べたらな、って思っただけ」
「…んー、あのさあ、ずっと思ってたんだけど、雷蔵くんって、わたしとどうなりたいの?」
「え、どう、って、え?」
「え?」
「え?」
「…えええ」


 本気で何を言われたのか理解していない様子の雷蔵くんに、わたしのほうまで混乱する。え、わたし、変なこと聞いた?いや、聞いたかもしれないけど、そこまで意味のわからないことは聞いてないよね?ね?ふたり揃って首を傾げている光景は、たぶん絶対おかしいと思う。よし、聞かなかったことにしよう、と思って「忘れてください」と言ったわたしの声は、どうやら雷蔵くんに聞こえていなかったようで、雷蔵くんはまだ頭をひねって考えている。なぜか聞いたこっちが恥ずかしくなってきたから、本当に聞かなかったことにしてほしい。


「いや、あの、雷蔵くん、変なこと聞いてごめん…」
「んー、ぼくは最終的になまえと結婚して幸せな家庭を築きたいと思ってるんだけど、」
「…んっ!?ちょっと待って雷蔵くん、話が飛びすぎじゃない?」
「え?そうかなあ」
「だってわたしたち付き合ってもいないのに、」
「え?」
「え?」
「付き合ってないの?」
「え、付き合ってるの?」
「付き合ってるよね、ぼくたち」


 そんな不思議そうな顔をされても困るのはわたしです。いやいやいや、付き合っているっていうのは雷蔵くんの妄想で、付き合ってないのが正解、なんだよ、ね?だって付き合うって、好きな人同士が告白とかして、はい、付き合いましょう、って言って付き合うもが一般的でしょ?まあ、必ずしもそういう始まりではないかもしれないけど、片方が付き合ってる自覚ないっておかしくない?しかもわたし別に雷蔵くんのこと特別すきってわけじゃないんだけど、あれ?ん?…たすけて頭のいい人!
 あれー?、と首を傾げているわたしを見て、雷蔵くんがふふ、と笑った。笑われてしまった。はあ、とため息をついたわたしの手をしれっと握ってきた雷蔵くんに、その手を持ち上げてみせる。おそらく怪訝な顔をしているだろうわたしに、雷蔵くんはにこにこと微笑みかけてきた。このやろイケメンめ。


「この手はなにかしら」
「なまえがぼくと付き合ってるって自覚してないみたいだったから」
「自覚も何も、付き合ってないよね、わたしたち」
「え?」
「もう誤魔化されないよ!」
「えー?」


 にこにこと楽しそうに笑う雷蔵くんに流されそうになるけど、だめだ。流されたらだめでしょ、わたし。手を振りほどこうとしても、雷蔵くんの方が明らかに力が強いから、結局振りほどけずに、気がついたら家に着いてしまった。これはまずい。こんなの、ただのじゃれあいじゃないか。うっかり大学の友達に見られていたら困る。いや、そうやって後ろ向きに考えるのは良くないし、忘れよう。






20131016

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