貴方に関する全ての権利は私に有り


 「また、怪我したようですね」
 「なあに…こんなもの直ぐに治る!心配するな!」


 メアリ・スペンサーとの対決で見事負傷した局長をブラザー・マタイは見舞いに来た。
 様子は元気なものの、腕にはチューブ、頭や腹に巻かれた包帯…それに滲む血が痛々しく見える。
 マタイの視線に気付いたペテロは腕を振り回して、「大したことは無いっ!この通り…右大円やらと僧帽筋、項靭帯が切れてたりするだけではないか……ぐぁッ!」と、元気(?)に振る舞っている。
 シスター・パウラが言うには、神の試練やらと鎮痛剤を断ったらしい。 自業自得という言葉がこんなにも似合う人間は初めてだ。(ようするに、ただの馬鹿)

 局長は、皆に弱味を見せない。いつでも、皆の強き局長である。だから、誰もが局長の強さを信じ疑わない。
 本当は喋るのも億劫だろう。
 そう意地を張られると、私は その意地をズタズタに引き裂いてしまいたくなる。
 私にだけは、全てを曝け出してしまえばいい…と考えている私が居る。

 「痛そうですね…」

 私は手の平を局長の包帯の巻かれた腹に乗せる。
 傷が治りきって無いのだろう…熱く、血の脈打つのが分かる。 この間までは、ここから 熱い血が滴っていたのでしょう。

 「おい、ブラザー・マタイ…何してるのだ」

 訝しげに私を見上げる。いつも、私が見上げているのに。
 私の上に立つ貴方を見下すのも、良い気分だ。
 私は手の平に力を込めた。
 包帯の隙間から 局長を痛め付ける傷口に、爪が食い込んだ。
 構いやしない。そうしたくてそうしているのだから。
 そうする度に、苦しそうに呻く声に何かとそそられる。

 「な、に…を!?」
 「私は、誰が傷付こうが構いやしませんが」

 持て余してしまう、この感情。
 そうだ…これは独占欲といった名前があるなあ、などと人ごとのように思った。


 「…貴方が傷付くのは、虫酸が走るんですよ」


 ペテロは、今日初めて 私の顔を真っ直ぐ見つめた。


 ペテロの瞳に映るは、普段の、切れ長の細い目。 柔和そうな顔。
 目が、逸らせなかった。脂汗が滲み出る、熱い感覚がした。

 ―――モロッコの悪魔

 そう言われただけある。
 こんな無慈悲な(上っ面だけの)表情で何千だかの市民を神の聖名を囁き殺戮したのか……。
 ペテロは、初めて目の前の男に、恐ろしくてたまらなく、背筋が凍る思いをした。





 私を凝視したまま、ペテロはどうする事もせずに、ただただ私を見ている。
 私は人が困惑する姿は見て居てこの上なく楽しい。それが局長だとすれば。
 困惑する彼に近づき、無防備に開けられた口に舌を入れた。貪るような口付けをした。 
 ここで、傷口を抉ることは忘れていない。傷と私が与える痛みに、強靱な彼でも 抵抗力は落ちている。
 男女の営みの様に、舌を絡め、逃れられないよう顎をしっかり押さえ付ける。

 変に生真面目な彼だ。
 女さえ知らないだろう。

 唇を離した時、局長は顔を朱に染め、こちらを凝視して息を切らしていた。
 有り得ないとでも 言わんとするように。

 「なッ…なッ…!何を…ッ!?」
 「抵抗されるのも好きですが、されるがまま……というのも新鮮ですね」

 私は局長の耳元で囁きながら、傷口に深く爪を立てて刔った。

 「ぐ………ツ!」
 「おや?結構深いですね」

 深い傷が私の指を受け入れる。
 指をグリグリと動かして捩込んだ。血を流しながら。
 嗚呼、まるで女の性器のようだ。

 「ぁ………あ゛ッ」
 「そんな顔しないで下さい…表情は勿論、声にまでそそられる」

 私は微笑み、そして指は乱暴に引き抜く。
 白い包帯とシーツに、赤が散った。

 「これで、私が付けた事になりますね」

 彼は絶句した。
 有り得ない、理解が出来ないとでも言いたげな視線を向けてきた。

 「これで、私が傷付けた傷だ」

 先程とは違った、優しく触れるだけの口付けを施す。

 「部下が幾ら死んでも、私は構わない。しかし貴方に死なれでもしたら私は困る」
 「………」
 「ま、傷付くのも嫌ですねえ……私が付けたのなら良いのですが……?」

 私はクツクツと笑う。ペテロ本人は本当でも冗談でも、微塵も笑えない。
 
 「な、何が言いたい?」
 「さてね。自分で考えたらどうです」

 私は身を翻した。
 精々、足らない脳で、頑張って私の言葉の意味を理解して下さい。
 でないと、私の欲が押さえきれなくなります。

 「貴方は自身の身体を大切にして下さい。もし、傷付いたら私が……いえ、何でもありません」

 大切に、大切にして下さいよ?
 立場は貴方が上でも、私にはそんなもの関係ない。
 貴方の手も足も髪も声も 全て。
 全部、私の物になるのだから。
 それまで、誰にも壊されないで下さいよ?


おわり

 マタ→ペテおいしい( ・ω・)
 王道だと思うのに、マタペテを見たことがない

 執筆090315
 改筆110410


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bkm




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