細長い体格。
首とか腕なんて、簡単に折れちまいそうだ。
しかし俺の半分程しかないだろう、その腕は、俺の倍以上の力を持っていることを知っている。
静謐な澄んだ青い瞳の裏に、荒れ狂う血のような赤が存在していることも。
*
「レェーオンさぁあああん!」
「・・・叫ばんでも聞こえるわ」
頭が痛くなるほどのでかい情けない声。廊下から俺の名前を叫ぶなよ、恥ずかしい。
廊下でどたばたと音を立て、更に壊れるくらいの勢いでドアが開く。
肩を上下させ、息荒くした神父が、開かれたドアの向こうにいる。
「レオンさん!お久しぶりです、会えて嬉しいです!」
「・・・俺も昨日ぶりに会えてオメエを殴り飛ばしたくなるぐらい嬉しいぞ」
エヘヘ、と(俺の嫌み?をポジティブに考えて)笑う神父アベルは許可も無くズカズカと俺の部屋へと侵入する。
ちくしょー。誰だ今日俺が短期間の任務で外出てるのをコイツに言ったのは。
俺は任務を口実に有意義に過ごしたかったのによ。いやいや、誤解しないでくれよ?ちゃんと与えられた仕事はする男だからな、俺は。
「すみません、レオンさん。私、4ディナールしか持ち合わせていないのでしてね…」
「つまりあれか。俺を餌付けるものは持ってないって言いたいのか」
「…まあ、そういうことになりますかね」
そんなこと言いたい訳じゃありません、という風に顔を曇らせた。
ったく、冗談って通じねえのかよ。 まあ、こうやってからかうのが面白かったりするんだけどな。
「で、何の用だ」
「へっ!? あ、ああ・・・レオンさんに会いに来たんです!」
「昨日も一昨日も牢へ来たじゃねえか。つーか毎日のように来てんじゃねえの?」
「毎日会いに行っても・・・こうやって、触れることが出来るのは、少ないですから」
アベルは目尻を下げ、見る者を和ませる笑顔を俺に向けた。この表情をされたら、どんな女でも、いや、どんな人間でも見惚れてしまうだろう。だから、あまりむやみにその顔するのは止めて欲しいだなんて思ってるのは、秘密だ。
しかし、コイツは誰にでもこの表情を向ける。
だからコイツは皆に愛され る。いや、別に妬いてるとかじゃなくて、真実だからな。
アベルの白い指が俺の頬を撫でる。
こんなイヤラシイ手つきで俺に触れるのは、コイツしか知らない。
顔と指が別々の生き物なんじゃないか・って、馬鹿なことを考える。例えるなら、優しい幼稚園の先生が猟奇的殺人犯。
「詐欺、だな…」
「え」
「こっちだけの話だよ」
そうですか、と別に気にした風もなく俺の首筋に顔を埋める。 熱い吐息がかかった。
アベルのイヤラシイ手は、俺の下着の中に滑り込んでいる。
おいおい、ベッドまで我慢出来ないのかよ。
「ちょ、止めろ…床が汚れるっつーの…」
「一緒にいっぱい汚して、一緒にカテリーナさんに謝りましょうよ?」
「冗談じゃねぇええええ!!!!!! 謝るならテメエだけで十分だ!」
「大丈夫です、カテリーナさんなら分かってくれます。それに、こんな言葉があるんですよ、『赤信号、みんなで渡れば怖くない。』って」
「どうせみんなで渡って大型トラック(カテリーナ)に撥ねられ(減俸宣言され)ちまうオチだろーがぁあああああああ!!!」
長たらしい銀髪を抜けるぐらいの力で引っ張っても、アベルは俺から離れようとしない。 テメエは発情期の犬かっつーの。
俺の息子はアベルに捕われた。 それだけで、腰が甘く痺れ、砕けそうだ。
そんな俺の様子に気付いてか、クスリとアベルは微笑む。
「一緒に怒られる気になってくれたんですね?」
「馬っ鹿やろ…! んなわけ、ねえだろが…」
鈴口に爪を立てられて、膝が笑い出した。きっと、下着はびしょ濡れになっているだろう。 自然と視界が涙でぼやける。ぼやけた世界の中心で、アベルが肉食獣の目を輝かせた。
ああ、俺はコイツに喰われる。
「私、ずっと我慢してたんですよ?今日まで想像力をフル総動員してイマジネーションしてました」
「ほう。何を妄想してたんだ、言ってみろ」
「私流48手に裏48手だから96手ぷらすシスタープレィぐはっ!!!!!!!!!」
顎に強烈なアッパーカットを決めれば、アベルの軽い身体は壁にぶつかった。 言葉にならない奇声を上げてアベルは目を回している。
私流48手と はなんだ。よく48も思い付いたものだと、呆れ半面感心する。それに、シスタープレイなど、コイツは聖職者失格ところか地獄に落とされるのではないだろうか。
「ハン、残念だな。俺は処女じゃねえからシスタープレイは無理だ」
「ややっ、それもそうですがね。シスターの恰好をしてもらおうかと」
「あーもー駄目だ。そこの窓から飛び降りてみろ。そしていっぺん死んで来ることをお勧めするわ。そうすれば少しはましな頭で生まれ変われるんじゃねえの。それとまずな、俺が着れるサイズがない」
3秒で復活したアベルはこりもせず、俺の背後に回る。
アベルは釣れないですねえ、と呟くが俺の身体はアベルに触れられたところから熱を発していることに気付き微笑んでやがる。
動悸も激しい。 せめて、それだけは気付かれないことだけを、一心に願う。
「大好きです、レオンさん。今すぐにでも抱きたい」
「ああ俺も大好きだ。抱かれるなら冷たい床じゃなくてベッドか良い」
「ーーーっ!?」
アベルの息を呑む音がした。
同時に俺はもの凄い力で抱え上げられ、隣の部屋の白いシーツの上に下ろされた。
コイツの赤色の瞳が好きだ。
狂暴性を秘めているこの男は、イヤラシク優しい手つきで俺を愛撫する。
女でもないのに、慎重に。
「レオンさん……こんなに固くしてますね、嬉しいです」
「なんならお前の中にブッ込んでやろーか?」
「フフ、遠慮します。それに、猫役は可愛い人だと相場は決まってるんですよ」
何を言っているのだか。
俺の容姿は女から掛け離れているのに対し、アベルは身長は高いが線の細く俺よりずっと綺麗だ。
胸毛のある野郎に可愛いなどと吐かすのは、コイツだけ(俺限定)。
俺の上には、獣と化したアベルが覆い被さってきた。
細長い体格。
首とか腕なんて、簡単に折れちまいそうだ。
しかし俺の半分程しかないだろう、その腕は、俺の倍以上の力を持っていることを知っている。
静謐な澄んだ青い瞳の裏に、荒れ狂う血のような赤が存在していることも。
バルドルの皮を被った肉食獣
ああ、俺は今からコイツに喰われる。
きっと、俺の骨の蕊までしゃぶるようにして、喰い散らかされるのだろう。
END
バルドル→誰からも愛される純粋なる光の神。祝福されし者。
紺乃様へ相互記念にて捧げます
執筆:100115