「レオンさん」
「なんだ、へっぽこ。悩みがあるなら、とっととそこの扉から飛び出せばいい。そして落ちて複雑骨折か頭打って死ねば解決するんじゃねーかなーーーー」
「貴方を抱いてもいいですか?」
か、という音が消えない間に、午後のおやつを提案するかのように実にさわやかな笑顔を見せた男に撃鉄をくらわせた。
「いくねぇええええええよ!!!!!!しかも抱いてもいいか・って何で俺が尻出さなきゃきけねーのか!!!」
「だって、男は可愛い人を抱きたくなるものでしょう?」
「まず、男を抱こうとしている時点でおかしい。プロフェッサーに頭見てもらうか、ガンスリンガーに頭撃ってもらえ」
俺を抱く云々言っているアベル・ナイトロードは子供のように頬を膨らませた。全然可愛くねぇし。俺の娘の方がずっと可愛い。
「ひ・酷いっっ! 私はおかしくありませんよ!!!」
「紅茶一杯に角砂糖十数個いれてる奴はおかしくないなんて言えねーよ」
「おいしいですよ」
アベルは目を細め、俺の両腕を掴んだ。アベルの瞳孔が縦長になり、一瞬血のように赤い色に染まった気がした。そして、俺の口に甘ったるい紅茶・・・いや、ゲル状の何かを流し込んだ。
「あ゛っっっま!!!」
「おいしいでしょう?」
「糖尿病になるわ!!!!!!」
俺はアベルの腹を蹴り飛ばし、苦い珈琲を求めて売店へ向かった。
アベルは俺の後をヒョコヒョコとついて来る。
「…なんでついて来るんだよ」
「レオンさんが好きだからです」
レオンさんがその気になるまで何もしません、と言う。さっき手を出したばかりではないか。
しかし、先程のアベルの膂力は尋常ではなかった。鍛えている俺の力ではびくともしなかったのだ。それは、その気になれば俺をどうにでもできるということを証明していた。
「…」
「ちょ、レオンさん…何か言って下さいよ! 私、結構恥ずかしかったんですからっ!!」
「あっそ」
「あ、もしかして照れちゃいましたー?レオンさん可〜愛いっ!!!」
「ウゼエ。だれが可愛いだ阿呆。ダンディでカッコイイと言え」
ヘラヘラとしている面にチャクラム投げてやろうかと思った。
けど、止めた。何故か分からないが。
(甘さにやられたのかもしれねぇ)
(そう考えてしまった自分 を殺したい)
甘い口の中が俺を苛立たせる。
End
執筆091212