愛しき悪意

 「僕、さあ」

 金髪の少年に向かって、どす黒い言葉を浴びせる。 愛くるしい、大きな瞳を震わせながらあの人の姿を真っ直ぐに見つめていた。
 ああ、この目玉。刔り取ってやろうか。 この目玉が、あの人を映して捕らえているんだもの。これに映ったあの人は、一度もあんたにこんな表情を向けたこと無かっただろうね。
 だから僕はそれをする。甘ちゃんのあの人は、誰にもこんな表情、いや、作ったことも無いだろう。
 だから、尚更ムカつく。

 「君が大嫌い」

 少年は、絶望に歪んだ顔をする。僕は爽快な気分だ。
 
 「ラ、ドゥ」
 「嫌い、大ッ…嫌いだ」

 僕の口は自然と弧を画く。 もっと、絶望を味わうんだ。あんたなんか嫌いだよ。僕が欲しいものを持っている。

 「死んでしまえ」

 蒼い双眸はあんただけに微笑んだ。僕には一度も向けられたことが無い。 

 「ラ、ドゥ…」

 あの人の名前を呼ぶな。
 もう、あんたのあの人はもういない。 あの人は僕だけの物。軽々しく、名前を呼ぶなよ。

 「どんな気分だい? 相棒に裏切られた気分は!!」
 「嘘、だ…違う、貴様は…」
 「僕は君を殺したくってしょうがないよ…先ずは、その僕を映す可愛い瞳を刔り…次に細い喉をかっ捌いて…」
 「止めてくれぇ…ッ…」

 少年は両手で目を覆う。指を間からは雫が流れている。
 
 (何故、こんなことを…)

 何故そんなことをするかって?
 君が大好きだから、君の大好きな人を壊すんだよ。僕だけを、真っ直ぐ見て欲しいからね。純粋で単純な君にはこんな気持ち理解することも出来ないだろうけれど。
 
 「ひ、あ゛……」
 (止めろ!イオンに手を出すな!)


 ああ、腹立たしい。
 こんなにも、君に思われていただなんて。

 僕は君の姿で、刃を振り落とした。


 End


 執筆:100109


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bkm




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