高貴な女

 「以前、『君の墓前に捧げる花』は何が良いか…という話をしたことを覚えているかな?」
 「知るか」

 細煙草を優雅な仕種で吸う長髪の男の足元には、浅黒い肌をした巨漢が倒れている。  巨漢の反抗的な態度に、長髪の男は気を悪くした風もなく、自分のペースで話を続ける。 

 「私は、君には百合が良いと思ったのだよ」

 巨漢は目を見開き、長髪の男の前で立つこともままならない原因となっている傷のことも忘れ去り、ただ驚く。 
 何の顔色を変えずに言った所から、冗談で言ったのではないことが分かった。
 
 「…っはーン……」
 「何なんだね、その反応は」
 「いや、俺に百合…へぇ、似合わねえと思ってよ」

 百合と言って浮かぶのは、清楚なお嬢様というイメージだった。 どれをどうして自分に百合が似合うのかということに結び付けたのかが分からない。
 長髪の男は、引き攣った顔をする巨漢の髪を掴んで、自分の顔の位置まで上げる。

 「ガルシア神父。知らないのかね、百合の花言葉を」
 「そーいうことかよ、全く知らんがな」
 「高貴、威厳、強いからこそ美しい…」

 長髪の男…ケンプファーは細めた目の奥で笑う。 レオンの揺るがぬ不敵な眼差しをを見て。
 
 「尤も、百合によって違うがね。代表的なのはこれらさ」
 「ハッ、花言葉なんてのを知ってるなんざ、メルヘンな野郎だな」
 「女性を口説くには持ってこいの言葉だよ」
 「俺は女じゃねえ」

 そうかな、とケンプファーは言うと同時に手を開く。レオンはなす術もなく再び地面を這う。
 ギリ、と歯を剥くレオンをケンプファーは躊躇なく足蹴にした。 

 「しかし、君は私に敗北(マケ)た。君はそれを認めない。私は君のその、屈辱感に満ちた顔こそ、高貴・威厳・強いからこそ美しい…などという言葉が似合うと思ったんだ」
 「…そりゃどーも。あんたは陰険だとか、そーいうのが似合いそうだ」
 「陰険?君もディートリッヒも私の耽美な心を分かってはくれないのだな」

 ケンプファーは、更に脚に力を込める。 レオンからは、敗北を受け入れぬ不屈の精神が感じとられた。
 この上ない優越感だ。

 「今の君は、何も抵抗の出来ない“女”だ。目の前に美しい女が
いて口説かないのは、一紳士として失礼だろう?」

 「その“女”とやらを足蹴にしている時点で、紳士を語れると思ってんのか?」
 「それもそうだ」

 レオンは、顔を思い切りしかめて悪態を吐く。ケンプファーは苦笑すると、レオンの手に口付け囁いた。 
 

 


 End.

 ケンレオ、(になっているか分かりませんが)書かさせていただきました!
 レオンはダンディライオンがコードネームですが、私的には百合の高貴な感じと花言葉が似合うと思います。
 企画リク有り難う御座いました。
 紺乃様に捧げます。

執筆:100613


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bkm




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