私の夢物語
 フと机から顔を上げれば、自分とは対照的な男らしい体つきと顔立ちをしたレオン・ガルシア・デ・アストゥリアス。
 レオンは先程から睡魔と闘っているのだろうか、何度も欠伸を噛み殺す気配が感じられた。

 この部屋には二人しかいない…のは、ルードヴィッヒが人払いをしたからである。それに、とうに日は暮れて月が夜空を照らしているような時間帯だ。わざわざザイドリッツを傍らに控えさせる必要はないと考えた。
 
 目の前にいるこの男は、教皇庁ではなく私の手足。
 長く柔らかい金髪の奥の瞳は細められ、レオンだけを捉える。
 やっと、手に入れた。私の理想の忠実なる愛おしい部下。
 
 「あ…どうかしたんですか」

 レオンと目が合った。
 彼はすぐに私の視線を感じとって、私の意に合う行動をしてくれる。全く、優秀すぎて愛おしさが倍増する。
 ここまでくると、胸の奥に独占欲といったものが芽生えてくるが、すでにこの男は私の所有物。自分の物に執着してもなんら悪いことは無いだろう。
 
 「いえ、何でもありませんよ。ただ、ガルシア君を見ていただけですから」

 「はあ…」

 しかし、手に入れたからこそ、本当の意味で欲しくなった。
 身体は手にいれた。では、心はどうだ。
 こればかりは目には見えないので分からない。
 
 「陛下、疲れたのであればもうお休みになられたら宜しいのでは」

 「もうそんな時間ですか。どうりでレオンが眠そうにしている訳だ」

 彼は気付いたであろうか、私の彼に対する呼び方の変化を。
 気付いていない訳がない。気付いていながらも、戸惑っているだけであれば良いのだが。
 
 レオンが私の車椅子に手をかける。私は下からそっと、彼の顎に触れた。
 
 「どうしたんです、陛下」

 「レオン、忘れたのですか。陛下ではなく、ルードヴィッヒと呼んで下さい」

 二人きりの時は、陛下も部下も何もないのだから。
 ね?、と顔を綻ばせながら笑うと、私の名前を小さく呼んだ。
 ああ、何て可愛いらしい人!

 「で、さっきから俺に向ける視線は何なんだ」

 私は彼の切り替えの早いところも気に入っている。(むしろ全て気に入っているのですがね。)
 寝室のドアを開けば、本当に私と彼だけの空間。ここでは私は陛下で
はなく、一人のルードヴィッヒという男になれるのだ。

 「貴方を…レオンを手に入れたのだ、ということがとても嬉しくなったのですよ。気分を悪くされたらすみません、純粋に私はそう思ったのです」

 「そう言われると、年甲斐もなく照れる」

 「照れて下さい、私、レオンの照れた顔が見たいな」

 レオンは浅黒い顔を微かに赤く染め、微笑した。
 その顔を見ていると、こちらの顔もほてったような感じがした。雪花石膏のようと言われる私の白い頬を染めることが出来るのは彼だけ。

 「俺はルードヴィッヒのモノ…あー…まるで、嫁いだような気分だぜ」

 「フフ、似たようなものじゃあないですか。出来るのであれば、私はレオンと結婚して円満な家庭生活を送りたいです」

 どうせこれは夢物語。国王として、そんなことは許されるはずがない。でも、二人きりの時ぐらい、夢見る権利はあると思うのです。
 レオンは私の頭を乱暴な手つきで、それでいて優しく撫でた。私は、それがとても嬉しかった。
 
 一人で寝るには広い寝台へと、レオンに手伝わせて私は腰掛ける。
 そして、彼は私が眠りに落ちるまで傍らにいてくれるのだ。でも、もの足りない。
 この寝台は、私一人が寝るには広く、また寒いのです。

 「レオン、一緒に寝てくれませんか」

 レオンの服のすそを少し引っ張ると、彼はやや驚いた面差しで私を見た。私だって、甘えたくなる時だって、あるのですよ。
 私は少し口を尖らせ、彼の腰に両腕を絡ませて引き寄せた。彼にとっては予想外だったようで、呆気なく私の隣へと倒れ込んだ。

 私の目の前に、レオンの顔がある。
 私は彼に啄むように口付けて目を閉じた。彼の体温を感じながら。
 とても心安らいだ。虐殺者という異名を持つ私の凍てついていた心が、温かなものになる。

 「ルードヴィッヒのお願いと来ちゃあ、断れねーな」

 朝に起こしに来るザイドリッツにはばれないように、明日は早起きをしなければ。
 別に、私の権限で口封じなどたやすいものだ。

 ただ、侵されたくないだけ。
 私の、夢物語のような世界を。


 End


 バレンタイン企画、リクして下さった
 紺乃様に捧げます!

 執筆:2010-02-18 01:50


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