「あは…、死んじゃった」
そう言う彼の唇は朱く濡れている。
艷かしく、唇を赤い舌で舐めた。
白い膚は傷付くことを知らず、また穢れも知らぬ。
「お味はどうでした、我が君」
「うーん、微妙だった」
彼は干からびた死体の首筋から顔を上げた。
つい、私は彼の妖艶さに魅入ってしまう。無防備にさらけ出された喉元。挑発的に細められた双眼。重力に任せて靡く金髪。
「でもね、僕の中ではまだこぉんなに元気だよ」
彼は自分の股下を指差した。
死してなお、人間の欲望はくじけないのか。
「でも、こっちもビミョー」
彼は嗤い、一気に引き抜く。
欲望の象徴を。立ち上がると、彼の中からドロリとした血が流れ出る。そこから、醜い一物を引き出した。
それは、死体の胸へと落ちた。
「顔は結構良いからさ。どっちもイケると思ったけど、全然駄目」
「そうですか。では、次をお探しに?」
クス、と笑う音がした。
私は、彼が私を見ていることに気が付いた。
美しく、淫猥な瞳で。
「アイザック、そう怒らないでよ」
「怒って、など……」
「嘘だね。羨ましいんでしょ、これが」
白く長い指が指したのは死体。
貴方様は何故見抜いてしまうのですか。私の浅ましい欲望を。
羨ましいのですよ、貴方を抱いたこの汚らわしい生き物が。長生種だろうがなんだろうが、貴方を汚すような行為を許されることが。
「ええ、とても」
「素直でよろしい。おいで、アイザック」
月明かりの薄暗い中で、彼の白い肢体はよく映えている。
私は、光に群がる蛾の如く、フラフラと歩み寄る。
しかし、彼は微笑んで私を迎え入れてはくれない。
私は、何故赦されないのだろうか。
先程まで生きていた死体がしたように、彼に触れることも愛撫することも歯を立てようことは赦されているのに。
「ばぁーーーか。アイザックなんかにさせてあげるわけねぇだろぉ」
「……っ!」
「あはは、アイザックの血を飲めないのが残念だな。君が長生種だったら、真っ先に喰い殺してあげたのに」
私の視界が回り、落ち着いた時には彼の顔が至近距離にあった。
彼の指が私の黒く長い髪を絡め
る。彼の膝が私の股を割る。私が喉を曝した瞬間に、彼は私の喉を舐め上げた。
背筋が粟立つ。咄嗟に手が出るも、髪と共に私の両の手は彼の手によって押さえ付けられてしまった。
「僕だけでしょう?君をこんなにも辱められるのは」
「ひ、ぁ゛……」
「辛い?僕を抱きたい?抱かせてやるものか、僕がアイザックを犯す。それだけで十分なのだから」
ディートリッヒは、天使のような容姿をしながらも中身は悪魔だ。だとすれば、彼は天神の容姿をした背徳の神。
無慈悲で残酷で私を唯一殺すことの出来る神。
私の中を、彼の指が割って入ってくる。
いつまでたっても慣れない(慣れたくない)この感覚は、私に毎度激痛を与える。彼はきっと、慣れないように、また彼が愉しむためにやっているのだろう。
「もっと、苦しめアイザック。君を暴くのは僕だけだよ?僕を暴けないのは君だけ。ああ、そんな顔しないで…なんて言わないよ、もっと僕に見せて。愛してる、アイザック」
「我が、君……」
私は彼を迎え入れる。
頬に自分の涙が流れるのを感じた。彼がそれを舐めとる。
私は彼に侵される。
彼の細い腕に、どれほどの強い力が宿っているのだ。抵抗という抵抗が一切出来やしない。私はされるがままに、堕とされる。
人間は、神という高貴な存在を堕とすことに快感を感じるらしい。
私はそれを成すことの出来る一番近い所にいるのにも拘わらず、叶わない。 なのに、ゴミも同然の下賎な奴は彼を犯すのだ。
私の浅ましい欲望は、望まぬ形で吐き出される。
「ああ、僕が抱かれるの見て興奮してたんだね。可哀相に、僕を抱けなくって。自分が自分であることを後悔しているでしょう?目の前にあるのに手に届かなくて」
「あ…ああっ!!!」
私はもう堕ちた。
これ以上堕ちて何になるというのだ。
初めて彼を見た時、私の世界は灰色から全てが変わった。この世にはもう何もかも見出だせなかった。
「止めて、下さ…もう、後生です、から…」
「こんなに情けないアイザック見れるのも、僕だけだよねー…止めてどうするの、自分で慰める?僕を犯したいの?そんなこと、僕が許すはずが無いの自分でも分かってるでしょ?」
「あ゛、あ゛あ゛ぁぁぁ!!?」
「アイザックって、頭良いけど馬鹿だよね」
卑猥な水音が私の鼓膜を犯す。彼は私の痴態を愉しむかの様に、舌を耳へと入れる。鳥肌が立った。
彼の前では、私の影も全てが無力に化す。
彼が、淫靡に囁く。
「本当は望んで止まないんだろ。自分の力が屈服されることも、辱められることも。強情だね、早く認めちゃえばいいのにさ」
「違……」
「素直になれよ、 ……」
彼は私の、本来の名前を囁いた。
それだけで、初な女のように顔が赤らむのを感じた。何故、彼が私の名を知っている?
何故、私は悦んでいるのだ。
困惑する私を見、彼は凶悪に口端を吊り上げた。
「これだから、君を抱くのはたまらない…!」
ズグリ、という音がした気がした。痛みと快感が私の身体を駆け巡る。
「ねえ、本当は抱かれたくってしょうがないんでしょ。犯すんじゃなくて犯されたいんでしょ、言って御覧?僕の可愛いアイザック」
「あ、ぐ…あ、あ…」
彼の声は私の腰を甘く痺れさせ、一種の催眠のように私の全てを奪う。
「アイザック、僕の前では君は全てを曝け出せ」
おわり
100222
我が家のカイケンはこんなんです。
こんなカイケンに賛同する方、お友達になりましょう/(^o^)\
読んで下さり有り難う御座いましたm(__)m
bkm