つまらない男

 「つまらない…」

 ディートリッヒは四肢をベッドに投げだし、白いシーツに顔を埋める。
 退屈を感じ始めた当初、イザークの部屋に忍び込んで書物を漁っていたのだが、飽きてしまい今に至る。ちなみに、ディートリッヒがぐうたらとしているこのベッドは、ディートリッヒの物ではない。
 『糸』を使えばどんな鍵も皆も僕の隷さ♪なーんて思いながら、罪悪感など微塵も無く部屋に侵入したのだ。

 シーツはあいつの匂いがする。でも、そこで年頃の女みたいにキュンキュンしないからね(僕にそんな期待しちゃ駄目だよ)。
 昼間だから寝ていると思ったのに。
 ジェルさえ塗れば、吸血鬼もお外でピクニック出来ちゃう時代だから、どこかへ出かけたのだろう。こんな時間に出かけるぐらいだ、どうせしばらくは帰ってこないだろう。

 「…よし。物色するか」

 部屋に侵入したらすることは一つだよねー。つか、吸血鬼って溜まるの?とりあえずは人間っぽいし、不能ではないみたいだからきっとそうだ。
 どーしよ、見つけちゃったら。…いや、僕という存在がいるのに、他の女(男?)で抜くのは許せないな。いやそれ以前に、幼女趣味とかだったらどうしよう。強ち否定出来ないし、洒落にならない。
 ベッドの下も、机の引き出しも、特に無し。うーん、やっぱ、生身の人間には興味がないっていう人種なのかな?

 「オタク、何してるの」
 「君ってさ、顔も部屋も平凡すぎてツマラナイね」
 「ウザっ。ちょっと顔が小綺麗だからって調子乗るなよガキが」
 「ちょっと顔が小綺麗な僕は暇つぶしに来たんだけど、君の部屋はエロ本も悪趣味な何かも無くってツマラナイね。顔と部屋って似るのかな」


 帰って来た部屋の持ち主は、不機嫌そうな面で僕に出てけと訴える。
 僕が素直に従う訳がないでしょ。メルキオールもそれが分かっているのか、僕をいないものとして認識して身を翻した。

 ああ、本当にツマラナイ男。
 僕はメルキオールの腰に腕を回して、彼の匂いが染み込んだベッドに押し倒す。
 メルキオールは何も抵抗しない。でなければ、僕の力じゃ押し倒すなんてこと出来ない。

 「僕、疲れてるんだけど」
 「そうなの?メルちゃん、マグロになる?僕、騎乗位でメルちゃんにエッチなことしてあげよっか?出血大サービス、流した血は一滴残らずすすってね」
 
 メルちゃんたら、真性のザ・ツマラナイ男だよ!!僕の糸もよくわかんない手品で弾いちゃうし、僕が一番苛立つことをするし。
 ああもう犯してやろうか!その澄ました顔も行動も、全部僕が乱してやりたい。
 

 「御勝手にどうぞ」
 「…ツマラナイ男」
 「そのツマラナイ男に跨っているのはオタクだよ。悪趣味だね」

 メルキオールがせせら笑う。厚い眼鏡のレンズの向こうから、心底僕を軽蔑する眼差しを向ける。
 僕は背筋が凍るかのような痺れを感じ、軽く触れられた下半身は期待感を募らせる。僕も、随分とマゾヒストになったものだ。

 言われなくとも分かっているよ、僕はどうしようもなく悪趣味だ。こんなにもどうしようもなくツマラナイメルちゃんに構っている。
 『糸』が効かなくて、全く僕の思い通りにならないだなんて、ツマラナさ過ぎる。

 「そうだよ、僕は悪趣味だ。ヤバイくらいツマラナイメルちゃんがだあいすき」

 僕の下着はもうぐしょぐしょに濡れていて、メルキオールは楽しそうに僕のペニスをパンツの上から撫で上げた。 それだけで身体が歓喜に打ち震えた。

 他者を支配することに慣れて退屈な僕は、僕を支配出来てツマラナイ男を愛している。


 End

 執筆:100311


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bkm




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