犯させてご覧遊ばせ!

 「僕、あんたの黒髪嫌い」

 僕の手中にあるのは、憎らしいくらいに艶やかな長い黒髪。
 なんでこんなにも長いのに、この髪は傷まないんだか。世界の女性の敵だね。

 「ディートリッヒ。発言するのであれば、その発言に至った過程を前に言ってくれないか」
 「言うものか。唐突に思っただけだよ」

 イザークは僕の方を見向きもしない。 どうせ僕はあんたらの眼中にないことぐらい分かってるけどさ。
 手を斜めに傾けると、スルリと髪は僕の手を逃れていく。
 それが無性に腹立たしく思えて、僕は再度イザークの髪を捕らえ、引っ張った。

 「その手を離してくれ、そんなに強く引っ張ったら痛いし抜けてしまう」
 「はっ…痛そうな素振りなんて見せないくせによく言うよ。イザークなんか禿げてしまえ」
 「年寄りにその言葉は酷いと思うがね」

 僕はフン、と鼻を鳴らし、イザークの髪を一際強く引っ張ってから離した。
 サラサラとこぼれ落ちるように離れていく髪が愛おしくなっただなんて言ってやるものか。
 
 細葉巻の香りがした。 そういえば、我が君の所へ行った時もこの香りがした。朝に。
 昨晩、一緒にいたのかな。もしかしたら、今朝まで。
 イザーク、我が君大好きみたいだし。そんなこととかしてるのかも。

 「なんか、いやだ」

 イザークが今日初めて僕を見た。 その濁った瞳に映っているのは、情けない顔をした僕だった。
 僕はそれが見たくなくて、イザークから目を逸らした。 きっと、イザークは僕を全て見透かして笑っている。

 「ねえ、カイン様と何してたの」
 「気になるのかね」
 「うん。僕は好奇心旺盛だしね」

 僕は立っていて、イザークは座っている。僕がイザークを見ると、見下すようになる。 まるで、イザークを掌握したみたいで気分が良い。
 
 「どんな風にしてたの」

 一瞬、イザークが眉を潜めた。否定しないんだね。
 僕はイザークを押し倒した。僕はつくづく押し倒すことが好きなんだなーって、思った。 本とイザークの黒髪が床に舞う。
 僕とイザークの視線が交差する。けど、僕はイザークの濁った瞳に映った自分を見れないんだ。

 イザークの日に焼けない白い首筋に顔を埋めた。 


*


 「ぁあああああ!」

 日に焼けない白い喉をのけ反らせる。双眼からは透明な雫が零れ落ちる。
 細長く、傷のない指が床を引っ掻く。
 悲痛な嬌声と卑猥な水音は良き調に思える。

 「止め…っ、本当に…」

 潤んだ瞳で睨んでくる。 そして、哀願する。

 「ディートリッヒ…」

 名前を呼ぶと、本当に泣き出しそうな、後悔するような目で私を睨む。
 私は、ディートリッヒを嘲笑う。結局はお前は私に拾われた餓鬼に過ぎないのだよ。それを理解してもなお抗おうとするディートリッヒは聞き分けのない子供そのもの。 

 「そう、我が君は私の名前を囁き深く穿ったのだよ」
 「あ、ふっ…あ、ああっ」
 「ディートリッヒ、私も哀願した。『止めて下さい、後生ですから』と」

 ディートリッヒはもう止めてくれと切れ切れとした言葉で叫ぶ。きっと、あの時の私は、我が君にこう見えていたのだろう。
 あの方は私に抱かせてくれない。だから、ディートリッヒに私は絶対に抱かせない。
 ディートリッヒの頬に涙が流れる。私がそれを舐めとる。
 彼は私に侵される。

 ────もっと、苦しめアイザック。君を暴くのは僕だけだよ?僕を暴けないのは君だけ。ああ、そんな顔しないで…何て言わない、もっと僕に見せて。愛してる、アイザック。

 「イ、ザーク…」
 
 ああ、何て可哀相な子供。
 我が君と私に拾われたばかりに、こんな余興で振り回される。

 「ああ、私が抱かれるのを想像して抱いてみたくなったのだろう。可哀相に、私を抱けなくて。自分が我が君に拾われたことを後悔しているだろう?」
 「あ…ああっ!!!」

 私はもう堕ちた。
 これ以上堕ちて何になるというのだ。 
 初めて我が君に出会った時、私の世界は灰色から全てが変わった。この世にはもう何もかも見出だせなかった。
 
 「もう、止めて 下さい…」
 「こんなに情けないディートリッヒ見れるのは、そうそういないだろうー…止めてどうするのかね、自分で慰めるのか?炎の剣の所へ行くのかね」
 「あ、あああああ!!!?」
 「ディートリッヒ。お前は、頭が良いけど馬鹿だ」

 私にそっくりだ。
 
 私は我が君を抱けない。だから
我が君にされた様に、我が君が味わった征服の快感をディートリッヒで味わうのだ。
 恨むなら、両親を殺し路頭でさ迷った自分を恨め。
 憎むなら、我が君と私に拾われた自分を憎め。

 ────アイザック、僕の前では君は全てを曝け出せ。

 「アイザック、君ってば、本当に馬鹿だよね」
 「馬鹿に付ける薬はないってことですよ」
 「カイン、様…っ!!」

 ディートリッヒが羞恥と驚愕の表情で、突然現れた我が君を見る。 我が君は柔らかな眼差しで私をディートリッヒを見下ろしていた。

 「好奇心旺盛なディートリッヒが可哀相。イザーク、ディートリッヒの前で犯してあげる」
 「そろそろ私に犯されてくれないのですか」
 「あは…イザークったら。君は抱くよりも抱かれる方が性に合ってるよ」

 私はディートリッヒの中で性を放つ。ディートリッヒはギリリと歯を噛み締めたと同時に果て、床に崩れ落ちる。
 人形使いは壊した人形の如く、ぐったりとして動かなくなった。

 

 End


執筆:100318


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