日吉誕生日SSS




「すまない。今は、テニスに集中したいんだ」

 彼ならそう言うだろうなあ、と分かっていた。分かっていて、それでも伝えたかった。つまりエゴ。そんな私のエゴにも真剣に応えてくれた日吉くんのためにも、今はこの気持ちを我慢しようと決めたのに。
 12月5日、この日がもうすぐ過ぎ去ろうとする今、私はスマホのメッセージ画面を開いては閉じてを繰り返していた。

『誕生日おめでとう』

 その一言を、私が送っていいものか。考えても答えが出ることはなく、ベッドで仰向けになりながら画面を見ていると、つい手が滑ってしまった。

『いだっ!』

 なんとも可愛くない声。顔も痛いし。こうなる度に気を付けようと思い直すのに、なかなか改善しないのは私の怠慢さ故。日吉くんならこんなこと有り得ない、というか、むしろベッドでスマホ触ったりするのかな? 痛む鼻を擦りながら画面を見ると。

「ありがとう」

 画面に表示されているメッセージと、その送り主の名前を何度も見比べた。

『ひー……』

 この気持ちを我慢しようと決めたのに、私の怠慢で誤送信したのに。それでも、この一言が返ってきたのがあまりにも嬉しくて、自分にナイス! なんて思ってしまって。心の中で、日吉くんに謝罪するのだった。

****

 今日は沢山メッセージが来て、返すのに苦労してしまった。もう画面を見るのも辛い。そのはずなのに、何故俺は何度もこの画面を開いてしまうのか。
 突っぱねたのは俺。それに後悔なんてしていないが。今日くらい一言あってもいいんじゃないか、と思ってしまうのは俺の我儘だ。

「はあ。くだらん」

 明日も早い。体内時計が睡眠の時を告げるため、何度も欠伸を出してくる。心にケリをつけ、枕元にスマホを置いた瞬間、

――♪

 反応の速さは、俺が成長した証だ。
 そして、開いた画面を見て、思わず唇に力が入る。変形しそうになる唇を、奥歯を噛み締め耐えながら、画面に指を滑らせた。

「ありがとう」

 これで最後だ。今日は一日疲れたな。今日は、よく眠れそうだ。




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