※風丸が女子で陸上部設定
※口調も一人称も変わってません








中学に上がってから変わったことがたくさんあった。

まずひとつは制服を着なければならないこと。
小学校までは私服だったので専らズボンばかり履いていたが、これからは毎日スカートで過ごさねばならない。
落ち着かないことこの上ない。

しかしそれはしょうがないとしても、もうひとつ大きな違いがあった。

それは円堂守についてである。

無類のサッカーバカと言ってもいい幼なじみの彼が、中学生になってから急にモテ始めたのだ。

そもそもサッカー部のヤツはナチュラルにモテるヤツばかりなのだが、一番厄介なのは本人がそれに気付いていないということだ。
この前も、部活終わりに調理実習で作ったとおぼしきクッキーを渡していた女子を見かけたが、いつもの調子でありがとな!と受け取って部員みんなで食べていた。
ここまで気付かれていないと逆に気の毒に思えてくる。



「円堂!今部活終わったのか?」

練習着から制服に着替え終えて、部室の鍵を返しに行くところで、偶然ユニフォーム姿の円堂と出くわした。

「たった今な!そっちも終わったのか?」

「ああ。…なぁ、それなら一緒に帰らないか?」

最近あまり一緒に帰ることがなくなっていたが、勇気を出して誘ってみた。

「…そうだな」

少しの間のあと、円堂は笑って答えた。
その答えにほっとする。
なんだか最近、円堂の態度が以前と違うように感じるときがあるのだ。
避けられているとまではいかないが、よそよそしいというか、どこか距離をおくようになった気がする。
それがオレの心臓をちくりと刺す。

怖くて好きだなんて伝えられないけど、せめて幼なじみとしては近くにいさせてほしい。

円堂は、じゃあ着替えてくる!と部室の方に駆け出した。


とりあえず自分は鍵を返しに行こうと思い、校舎に向かう。

職員室に鍵を戻し、サッカー部の部室に向かおうと思ったところで、後ろから肩を叩かれた。
振り返ってみると、まったく知らない男子が立っている。

「あの…風丸さん」

「はい?」

どうやら向こうはこちらの名前を知っているようで、何か言いたげにもじもじしている。
が、ためらっているのか一向に話が進まない。
なんだろう、何か顔についているとかそういった類いか?なんて思っていると、風丸!と横から大声が聞こえた。

「円堂」

そこには制服に着替え終えた円堂がいた。
円堂を見るなり、目の前の男子は急に慌て出して「また今度!」と去って行ってしまった。
一体なんだったんだ。

「…何話してたんだ?」

「いや、特に何も」

話す前にすぐにどこかに行ってしまったし。

「そっか、」

正直に答えると、円堂はこちらを見ずにさっさと歩き始めた。
それを慌てて追いかける。



――気まずい。

何故だかとても空気が重い。
まだ人がまばらにいるグラウンドを二人で歩いているのだが、さっきから円堂は一言もしゃべらない。
オレは何かしてしまったんだろうか。
久しぶりに一緒に帰るというのに、こんな空気は嫌だ。

なんとかこの空気を打破しようと思ったところで、グラウンドの隅に転がっているサッカーボールを見つけた。
…そうだ、これなら。

「円堂、久しぶりにオレのボールを受けてくれよ」

グラウンドの隅っこにあったボールを拾って円堂に渡す。
小学生のころはよく一緒にサッカーしていたし、これなら気まずい空気もなくなるはずだ。

「…今か?」

「え、今だけど」

そう言うと円堂はちらりとオレの足元を見て、わずかに眉を潜めた。
ずっと一緒にいるからこそ分かる、ほんの少しの変化だった。

「オレはいいけど、風丸は制服じゃないか」

何を思い詰めたように言うのかと思ったら、なんだそんなことか。

「何言ってんだよ、お前も制服だろ。それにちょっと蹴るだけなら別に汚れないし」

「そういうことじゃなくて…」

なんだか円堂にしては珍しく歯切れが悪い。

「なんだよ」

「………」

促すように言うと、円堂は黙りこんでしまった。

なんだよ、本当にいつもの円堂らしくないぞ。
そう言ってやろうと思ったのに、その言葉は喉につかえてしまった。
円堂の一言によって。

「もう昔と違うだろ?」

その一言は、オレにとって頭を金槌で殴られたくらいの衝撃だった。

「…そっ、か、だよな」

頭の中で言いたいことはたくさんあったけれど、これ以上口を開いたら涙まで出てきそうだった。

昔とは違う?どういうことだよ。
オレたちは幼なじみで、それは今も全然変わらないのに。
円堂はもうそんなの関係ないって言うのか?

「風丸、」

円堂がゆっくりとしゃべり始めたけど、オレは今とても顔を見れない。

「もうちょっと、その…危機感?、みたいなの持った方がいいぞ」

「……は?」

訳の分からないその言葉に思わず出そうだった涙も引っ込んだ。

「どういう意味だよ」

今度は円堂の目をじっと見て詰め寄る。
すると円堂はわずかに後ろにたじろいで、言いにくそうに視線を泳がせた。

「…だから、風丸は今スカートだからさ…、」

昔と違ってズボンじゃないんだし、今サッカーやったらまずいんじゃないか。

円堂らしからぬ小声だったが、はっきりと聞こえたそれを理解して一気に拍子抜けした。

「なんだそういうことか…。下にスパッツ履いてるし」

「え、そうなのか」

そう言って顔を上げた円堂とばちりと目があった。
その顔を見たら、なんだかちょっと意地悪してやりたくなった。

「円堂、鈍感のくせにそういうことは気付くんだな」

クッキーを渡していた女子の気持ちも、オレが円堂を好きだということも、全然気付かないくせに。

「…そういう風丸も、けっこう鈍感だと思うぞ」

「え?」

「何でもない!帰ろうぜ、サッカーはまた休みの日にやろう!」

「おい、円堂!」

円堂はオレの手を掴んで走り出した。
手を掴まれたことにちょっとドキドキしながらも、今はまだこれでもいいか、なんて思ったりするのだった。






グリーンピース


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またのタイトルを「オレの幼なじみがこんなにモテるわけがない」

風丸も何気にモテてるんですが、本人は円堂さんしか見てないので気付いてません
そんな風丸を好きだと自覚してから意識しちゃってよそよそしくなっちゃう円堂さん






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