※フリリクの学パロ放課後デートの別パターンです




待ち合わせ場所は正門に午後4時。
デートは待ち合わせから始めなければならないとヒロトは思っているらしく、昼休みに一緒にお昼を食べた時にそう言われた。

別に、俺ヒロトのクラスまで迎えに行くよ?と言ったら、それじゃつまらないじゃないかとヒロトは笑った。
どうにもこだわりがあるらしい。

授業が終わった放課後、俺はそんなことを思いだしながら正門の前にぼんやりと突っ立っていた。

手持ちぶさたに制服のブレザーの埃をはらう。
ヒロトはまだ来ない。

立っているのもくたびれたので、植木に寄ってしゃがみこんだら、丁度正面に影が現れた。

「ごめん緑川、待った?」

顔を上げると、それはやっぱりヒロトだった。
手には何やら、二枚の紙きれを持っている。

「そんなに。…それ何?」

ヒロトが持っている紙きれを指差す。

「ああ、これ?アイスの割引券だよ。さっきそこで吹雪くんに会って、だから遅くなっちゃったんだけど、もらったんだ」

「うそやった!俺チョコチップ食べたい!」

待たされたことも忘れて、勢いよく立ち上がる。

ヒロトは「よかった」と笑い、俺に割引券を一枚手渡す。

「じゃあ行こうか」

そう言って、ヒロトが当たり前の様に俺の左手を引いたので、俺は焦ってヒロトの背中を叩いた。

「おいヒロト!」

「何?」

「手!まだ明るいし…」

「…じゃあ、暗くなったらいいってこと?」

「っ…、」

そこで俺は言葉に詰まる。
なんだかんだ、手を繋ぐのは嫌いじゃない。

「…帰りに繋ごう、暗くなるから」

ね、とヒロトは笑って俺の左手を離した。

…ずるい。そういうところが本当にずるい。

気付かれないように、俺は左手で一瞬だけヒロトのブレザーの裾を握った。
それはお前だけじゃないんだぞ、という意味を込めて。



アイス屋に着くと、店内はそこそこ賑わっていた。
俺が注文してくるから緑川は席取っておいてと、ヒロトが俺の手からするりと割引券を取っていく。

こういう時、ヒロトはすんなりとそういうことをやってのける。
このカッコつけ。
俺だって男なんだから、とは思うけど、ここは素直に席を取っておく。

「はい、チョコチップ」

戻ってきたヒロトがカップのアイスとスプーンを差し出す。

「ありがとう」

それを受け取って、すぐさま一口すくって口に入れる。

「おいしい!」

ヒロトはそれを見て笑いながら、自分もスプーンでアイスをすくう。

「ヒロトは何にしたの?」

「ジャモカアーモンドファッジだよ」

「…そっちも美味しそう」

「一口食べる?」

「いいの?」

ヒロトはもちろん、と頷く。

「その代わり、緑川のも一口ちょうだい」

そう言うなり、ヒロトは俺の右手に持っていたスプーンを取って、チョコチップのアイスを口に運んだ。

「うん。美味しい」

「……なんでわざわざ俺のスプーン使うんだよ…」

「味見だから」

どういう意味だと深く突っ込むのはやめにして、俺もヒロトのアイスを一口すくう。
…うん、ちょっと苦い。

だけどヒロトがやたらニコニコしてこちらを見るので、俺は何も言わずに自分のアイスを口に運んだ。




店を出ると、空は少し暗くなっていた。

「最近暗くなるの早いよね」

ヒロトはぽつりと呟き、肩に掛けている鞄を持ち直す。

「うん」

返事をして、二人で商店街をゆっくり歩く。
街灯もつき始め、辺りを歩く人もまばらだ。

ふいに、左手にヒロトの右手がぶつかる。
そしてそのまま、ぎゅっと手を握られる。

「…ヒロト、」

「帰りに繋ぐって約束したじゃないか」

そんな約束は一方的だ、とは思うものの、俺は手を振り払うことはない。
暗いし、人も少ないし。

自分に言い訳をして、ぎゅっとヒロトの手を握り返す。

ヒロトは笑った。

「…まだ、帰りたくないね」

俺も小さく頷く。

まだ、もうちょっとだけ。
少しでも長く一緒にいたい。
そんなことを考えてしまう。

夕暮れ時のがらんとした公園に差し掛かった時、ヒロトは俺の手をぐいっと自分の方に引き寄せた。
ばっちり目が合う。

「俺、もう少し緑川としゃべりたい」

まっすぐに俺を見つめる瞳は、夕日を反射していてとても綺麗だった。

それにどうにも心を突かれて、俺は逆にヒロトの腕を引っ張り、ずかずかと公園のベンチに向かって行く。

「えっ、緑川?」

ヒロトは困惑した様子だ。

「…そんなの俺もだよ」

無理矢理ヒロトをベンチに座らせて、俺もその横に腰を下ろす。

「ヒロトが思ってること、たぶん、俺も全部同じ気持ちだから」

だから、ヒロトにばっかり格好つけさせたくないし、俺だって――。

そこまで考えてヒロトを見ると、ヒロトはずいぶんと間抜けな顔をしていた。

「ヒロト聞いてた?」

「…もちろん。いや、なんか嬉しくて…」

びっくりしたんだよ、と言ってヒロトはまた俺の手に手を重ねてきた。

「いいね。たまには放課後デートも」

「…そうだね」

「いつもは晴矢とか風介とかも一緒に帰ってるから。それも楽しいけどね」

「うん」

遠くの方でカラスの鳴く声が聞こえる。
空はもうほとんど紺色になり始めていた。

「結局、緑川といれれば何でもいいんだけど」

ヒロトがぽつりと言った一言が、静かな公園にやけに響いた。

「……、うん」

俺も小さく相槌を打つ。

この公園の景色も、一緒に食べたアイスの味も、校門でヒロトを待ってるあの時間だって。
俺にとっては全部、ヒロトとだから特別だった。

ヒロトもそう思っているのだろうかと思うと、ぎゅっと手を繋ぐ力が強くなった。
俺は思わず笑ってしまった。

きっと同じなんだろう。
この気持ちは、俺もヒロトも。





恋においてはそれがすべて


title:ごめんねママ




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