※学パロ




放課後のチャイムが鳴る。
長引いた帰りのホームルームが終わるなり、俺はすぐさま昇降口に向かった。
ざわめく廊下をすり抜け、急いで靴を履く。

昇降口を出ると、そのすぐ脇で緑川と吹雪くんが楽しそうにしゃべっているのが目に入った。

「お待たせ緑川」

俺が名前を呼ぶと、緑川はぱっと振り向き、ヒロト!と嬉しそうに笑った。

「あ、これからどこか行くの?」

横の吹雪くんが緑川に聞く。

「うん。スポーツショップにシューズを見に行こうと思ってて」

「へえ」

吹雪くんはちらりと俺の方を見て、「じゃあ、僕は退散するね」と笑う。
ひらひらと手を振りながら、正門を出て行った。

「…吹雪くんと何話してたの?」

「それがさ、駅の近くに新しいクレープ屋さんが出来たんだって!ちょっと行ってみようよ」

そう言う緑川の目は、キラキラ輝いて見えた。
緑川は甘いものが好きなのだ。

「うん、いいね」

俺が言うと、緑川はやった!と嬉しそうに笑った。



スポーツショップまでの道のりを話しながら二人で歩く。

「で、吹雪のおすすめはカスタードチョコ生クリームなんだって」

「へえ」

緑川はもう頭の中がクレープでいっぱいらしく、さっきからその話題ばっかりだ。

「本来の目的忘れてないだろうね」

意地悪するように言えば、緑川はすぐさま「忘れてないよ!」と返す。

「だって昨日の夜から楽しみにしてたんだから」

急にそんな可愛いことを言うものだから、俺は思わず頬が緩んだ。



話していたらスポーツショップまではあっという間だ。

「良いシューズあるかな」

と言いつつ、緑川はユニフォーム売り場で憧れのチームのユニフォームを合わせてみたり、サッカーボールコーナーを見たり、どうも真面目に選んでいるのか謎だった。
だけどそんなところが緑川らしくて、そんなところが好きでもあった。

「ねえ緑川、これはどう?」

なかなか決まりそうにないので、俺は雑誌で見たことのあるシューズを手に取る。
赤いラインが入っていて、ちょっとオシャレなデザインだ。

緑川はそれを受け取って脇の椅子に座り、試しに履いて足踏みをする。

「うん、履き心地いい」

「雑誌で見たんだけど、スタッドに拘りがあるらしくて足への負担が少ないから、練習用にはピッタリだと思うよ」

緑川はシューズを脱ぎ、俺の顔を見る。

「ヒロトはどう思う」

どう思う、って。

「良いと思うよ」

当たり障りのない返答をすると、緑川は満足そうな顔で頷いた。

「じゃあ、これ買う」




シューズの入った紙袋が、緑川の手元でがさがさと音をたてる。

駅の近くのクレープ屋は、新しく出来たばかりだからか結構混んでいた。
女の子だらけの中、男二人はなかなか目立つ。

落ち着かない様子でメニューを選び、落ち着かないという理由で持ち帰りで公園で食べることにした。

近くの公園のベンチに座り、緑川はさっそくクレープに食いつく。

「美味しい?」

聞くと、緑川は美味しいよ、と首を縦に振る。

とても美味しそうに食べるので、それを見ているだけで俺は満たされた気持ちになる。

「ヒロト食べないの?」

あっという間にクレープを平らげた緑川は、俺の手に持っている、あまり口をつけていないクレープを見る。

「よかったらちょっと食べる?アップルシナモン生クリーム、緑川が迷ってたやつ」

「いいの?じゃあちょっとだけ」

俺の手からクレープを受け取り、美味しそうに食べるさまはやはりそれだけで満足だ。

「…やっぱり、それ全部あげるよ」

「えっ何で?そりゃ食べられなくはないけど」

俺は笑って、「緑川が食べてるところを見るのが好きだから」と言う。

すると緑川は目をぱちくりさせて、すぐにふいと顔を背けた。

「…悪趣味、」

あんまり見るなよ、と顔を赤くさせて小さく言う緑川が、また可愛いくて仕方なかった。


クレープを食べ終え、ゴミ箱にゴミを捨てると、ぽつぽつと辺りの土の色が濃くなった。
夕立だろうか?
空を見上げると一面灰色の雲で覆われいた。

本降りになる前に帰った方がいいな。
そう思って緑川を振り返ると、俺の分の荷物までまとめてくれていた。

「俺傘持ってないよ、早く帰ろう」

あいにく俺も傘を持っていないので、二人して足早に家を目指す。

けれども、どんどん雨が強くなってきて、まだ春先の雨が肌に当たると冷たくて仕方がない。鞄の中の教科書が濡れていないかも心配だった。

「緑川、ちょっと雨宿りしようよ」

シャッターの開いている古い車庫のような場所に差し掛かった時、俺はぐいと緑川の手を引いた。

二人でシャッターをくぐり、ようやく雨を凌ぐことが出来た。

今は使われていない様子の車庫は、がらんとしていて雨の音がやたらと大きく聞こえる。

「結構濡れちゃったなぁ…」

緑川はしゃがみ込み、湿った制服のシャツを引っ張る。
結んだ髪は湿気でしっとりとしていて、緑川が使っている、俺の好きなシャンプーの匂いがした。

「…ねえ、緑川、」

俺も緑川のすぐ隣にしゃがみ込む。

顔を上げた瞬間、俺は我慢出来ずに緑川の唇に唇を押し当てた。

ちゅっ、という小気味良いリップ音と共に唇を離す。

「…ごめん、なんかキスしたくなって」

我慢出来なかった、と言うと、やっぱり緑川は顔を赤くさせた。
でもすぐに笑顔になって、「俺も」と俺の手を握る。

雨で濡れた俺の髪を触って、「これはことわざじゃないけど、水も滴るいい男ってやつかな」なんて茶化す。

そんな風に笑いながらくだらない話をして、二人で手を繋いだまま、雨が止むのをずっと待つ。

こんな放課後デートも、悪くはない。





雨のち君の月曜日


title:メロウ


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きなこさまリクエストの「基緑/学パロで放課後制服デート」でした!
あんまり放課後で制服な感じが出てなくて申し訳ないです…
でも個人的にデートプランを考えるのが楽しかったです^^
リクエストありがとうございました!




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