「……」
また黙り込んでしまったオレに、円堂は苦笑した。
「風丸って昔から本当に変わらないよな。そうやって考え込むとこ」
そう言ってオレに触れる円堂の手だって、中学生の時からちっとも変わっていなかった。
オレが好きな暖かい手のひらだ。
「…じゃあ円堂、もうひとつだけ聞いてもいいか」
「ああ」
オレは円堂の目を真っ直ぐ見る。
「10年後のオレたちは、どうしてる?」
自分にしては、かなり思いきった発言だ。
その問いかけに、円堂は満足したように笑ったのだった。
「変わったこともあるけどさ、ほとんど変わらないぜ」
例えば、と円堂は続ける。
「風丸が相変わらず髪伸ばしてるのとか、週末は絶対どっちかの家に行くのとか。あ、オレが風丸の前髪触るの好きなのも」
円堂はひとつひとつ、変わってないものを上げていく。
それは中々尽きなかった。
「あとは…」
「もう分かった。お前がそういうことさらっと言うのも変わってないんだな…」
途中から変に恥ずかしくなり、続く円堂の言葉を遮った。
「まだ不安か?」
「…は」
当たり前みたいに円堂が聞いてきたので驚いた。
「未来を不安に思う気持ちがあったから、10年前の風丸がここに来たのかと思った」
「……」
オレは何も言えない。
自分では全く自覚はないが、もしかしたらそうだったのだろうか。
自分でも気付かないような感情を、まさか円堂が汲み取るなんて。
そう思うと、10年という月日がとても長く感じた。
「本当は中学生のオレが不安をなくしてやるべきだよな」
今と変わらない物言いに、思わず吹き出す。
「ふっ…、そうだな。円堂は鈍いから」
オレがそう言い終わるか言い終わらないかのうちに、円堂の腕が背中に回され、強く抱き締められた。
「10年後、楽しみにしててくれよ!」
そうして最後に前髪をかき分け、オレの額にキスを落とした。
突然のことに何の反応も示せず、思わず固まる。
円堂は「10年前のオレには内緒な!ヤキモチ妬くから」と言って、眩しいくらいに笑った。
すると次の瞬間、ぐにゃりと視界が歪む。
ふわふわする感覚に驚いて思わず目を擦った。
何度か瞬きして徐々に視界がはっきりしてくると、そこはいつもの見慣れた円堂の部屋だった。
隣には円堂が、ちゃんと中学生の姿で間抜けな顔して眠っている。
「……」
あまりにもいつもと変わらない光景すぎて、さっきの出来事が夢だったのか現実だったのか、区別がつかなくなってしまった。
だけど何だか、今すぐ円堂と話がしたい。
なかなか起きる様子のない円堂に、オレはその鼻をつまんでやった。
「、ん゛ーっ!」
30秒もしないうちに円堂は苦しそうな声を出し、閉じていた目を開けた。
そしてすぐにオレが鼻をつまんでいるのに気付いて、若干涙目で「何してんだよ風丸!」と非難の声を上げた。
それがさっき見た大人の円堂とはまるで違うように見えて、思わずまじまじと見つめてしまった。
「…うーん。やっぱりまだ子供だな、お前」
「え?」
円堂は心底訳が分からないという顔をした。
その顔も、まだ成長途中の背丈も、鈍いところも、やっぱりそれが円堂らしかった。
「…まあ、でもお前は将来、格好良くなるよ。オレが惚れ直すくらいに」
だからそれを、近くで見させてくれ。
微笑むと、円堂は「何だよ急に」と照れて笑った。
そして、そっとオレの前髪に触れる。
未来の円堂が言っていた、10年後もオレたちの間で変わらないこと。
それに少しだけ、二人の未来が見えた気がした。
誓うように額に触れた、10年後の円堂の唇の感触が、今さら熱を持ってオレを熱くさせた。
「…風丸?」
どうしたんだ?と円堂は首を傾げる。
「何でもない。ただ、嬉しいんだ」
円堂に名前を呼ばれるだけで、もう未来は何にも怖くなかった。
これからの話をしよう
-------------
書いてるうちに
どんどん訳が分からない話になったのであった
back