雨が多くなる六月。
サッカーが出来なくなるからと、雨が降るといつも表情を曇らせていた円堂が、何故か今日は機嫌が良かった。
「何か良い事でもあったのか?」
今にも雨が降りだしそうな朝の通学路で、円堂にそう問いかけると、円堂は満面の笑みでオレを見た。
「なんだよ」
少し気味が悪くて身構えてしまう。
すると、円堂はゴソゴソと鞄の中を探って、ひとつの折りたたみ傘を取り出した。
何の変哲もない水色の傘に、オレは首を傾げる。
しかし円堂は得意気に口を開いた。
「この傘、母ちゃんが買ってきたんだけど、風丸みたいな色じゃないか!?」
キラキラと目を輝かせて言う円堂に、オレは思いっきり面食らってしまった。
「オレみたい…?」
「風丸の髪と同じ色だろ?」
「……まあ、そう言われればな…」
だけどそれは、普通に考えればただの水色の折りたたみ傘にしか見えなかった。
それなのに、やけに大事そうにその傘を鞄に仕舞う円堂を見て、オレは変に照れくさくなってしまった。
自分でも、何でそれだけのことで――と思うのだけど。
そんなことがあった日の放課後。
案の定雨が降って、部活は中止になった。
部活終わりだと皆で一緒に帰ることが多いけど、こういう日は大抵円堂と二人だけで帰っている。
だからオレは、雨の日が少しだけ好きでもあった。
帰りのホームルームが早めに終わったということもあり、先に昇降口に向かって円堂を待つことにした。
昇降口のガラス張りのドアから見えるグラウンドは、振り続く雨ですっかり土の色が変わっている。
入り口の屋根の下で、何人かの生徒が雨が上がるのを待ってお喋りしているのを、オレはただぼんやりと見ていた。
円堂のクラスはまだホームルームが終わらないのだろうか。
何気なく視線をグラウンドの方に向けると、雨の中で傘を差して歩いている一人の生徒がはっと目についた。
「…なんで、」
口から思わず言葉が零れる。
その雨の中でグラウンドを歩いている生徒――それはサッカー部のマネージャーである木野だったのだが、その木野が差している傘に、どうにも見覚えがあった。
というか、どう見ても、円堂が今朝オレに見せてきた折りたたみ傘にしか見えない。
木野は練習がない日でも部室の掃除をしてくれたりしているし、今日もきっとそのつもりで部室に行くのだろう。
だけど、その傘はどうして。
「風丸ー!悪い、遅くなった!」
段々遠くなっていく木野の背中をぼんやりと見つめている時に、タイミングが良いのか悪いのか、円堂が走りながらオレの元までやってきた。
「…? 何かあったのか?」
鈍感のくせに、目敏くオレの表情に気付いた円堂は、不思議そうな顔をしてオレの方を見る。
「いや、何もない。早く帰ろうぜ」
そうしてくるりと円堂から背を向けて、自分の折りたたみ傘を開いた。
「あっ、待って風丸!オレも傘に入れてくれよ!」
オレはそこで、一歩踏み出していた足をピタリと止めた。
「……お前、傘は」
「さっき秋が傘がないって困ってたから、貸した」
……何だ、やっぱりか。
円堂らしいと思うけど、オレの色だと言ったあの傘を貸したことが、なんとなく悲しかった。
「…そうか。じゃあ入れよ」
そんな気持ちを気付かれないように、オレは無理矢理笑った。
「…ごめんな!」
すると円堂が、そう言ってオレの右手から傘の持ち手を奪った。
それに少しびっくりして、「なんだよ」と言うと、円堂はいつもの太陽みたいな笑顔で笑う。
「オレは風丸と相合い傘で帰れるから嬉しいけどな!」
「…は、」
……何だ円堂、
もしかしてオレがちょっと悲しいって思ったの分かったのか?
屈託ない顔でそんなことを言われてしまえば、もう何でもいいかと思えてきてしまった。
たかが傘、されど傘。
それだけのことで一喜一憂するなんて、なんて女々しいんだろうと思う。
だけどそれも、円堂だからなんだよなぁ、と思い知らされてしまう。
雨でせっかく視界も悪いのだから、オレは円堂と手を繋ぎたいなんて考えてしまった。
だけど、円堂が丁度左手にオレの傘を持っているので、それは叶わなかった。
傘が邪魔をする
(今すぐ手を繋ぎたいのに)
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いろいろと感情が矛盾した話になってしまった´`
なんか秋ちゃんが悪者みたいでごめんなさい
これだけまとまらない話は今までなかった…
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