※基緑だけど緑川がほとんど出てきません
実質ふぶきやまという感じの吹雪視点です
※みんな同じ学校に通ってます
クラスで席替えをした。
僕は窓側から二列目の、一番後ろの席になった。
仲良しの染岡くんは廊下側の一番前。
残念だなあ、染岡くんと離れちゃった。
でもくじ引きだから仕方ないか。
そう思って机を移動させて、すとんと腰を下ろすと、左隣から透き通った声が聞こえた。
「となり、よろしく」
見ると、にっこり笑った綺麗な顔が、真っ直ぐ僕に向けられていた。
「…よろしく」
僕も笑ってそう返す。
彼の名は基山ヒロトくんという。
あんまり話したことはないけど、勉強が出来て成績は常にトップクラスらしい。
たまに人に勉強を教えているところを見かける。
それにスポーツも万能で、球技大会なんかではサッカーで大活躍していた。
おまけに物腰もやわらかくて、優しくて、面白くて、気遣いも出来るし、顔もすごくカッコいい(クラスの女の子談)。
そんな彼はやはりというか当たり前というか、女の子にとてもモテていた。
僕も女の子と仲良くなるのは得意だけど、基山くんはどちらかというと女の子にとって憧れという感じだった。
僕は一度、そんな彼とゆっくり話をしてみたいと思っていたから、隣の席になったことが素直に嬉しかった。
席が隣になって数日で、僕たちはすっかり打ち解けた。
ヒロトくん(と、呼ぶようになった)は見かけによらずちょっとズレているところがあり、それが妙に僕と波長が合った。
彼は別のクラスの南雲くんと凉野くんと一緒にいるのをよく見かけたけれど、基本的に誰とでも分け隔てなく仲良くしていた。
それは僕に言わせれば、友達が多いと表現するよりは、誰とでも仲良くするのが上手いといった感じだった。
「ヒロトくんて、彼女とかいないの?」
ある日何の気なしに聞いてみたら、ヒロトくんは笑って答えた。
「残念ながら」
「…ふうん。ヒロトくんモテるのに勿体ないなあ」
「そんなことないよ」
「ああでも、隣のクラスの背の高い子、…八神さんだっけ?あの子と仲良いよね。付き合ってるんじゃないかって気になってる女の子もいるみたいだよ」
「玲名はただの幼なじみ」
笑いながら、でもやけにきっぱり言い切るヒロトくんに、何だか聞いちゃいけないことのように感じて、僕はこれ以上話を広げることが出来なかった。
席替えしてから一ヶ月、僕はヒロトくんに関して気付いたことがひとつある。
たまに授業中、ずっと窓の外を見ているのだ。
初めは授業が退屈だからただ眺めているのかと思ったけど、どうやらそうではないらしい。
確かにヒロトくんの席は窓側の一番後ろの席だから、外を眺めるには絶好の場所かもしれないけど、それにしては何というか――必死すぎる気がしたのだ。
だって、その授業中ずっと顔を左に向けて、時には何かの動きを追いかけるように頭を動かしたり、すごい時は軽く身を乗り出していたりするのだ。
一体彼は、何をそんなに必死に見ているのだろう。
日が経つにつれて、その窓の外を見るのは、月曜の三時間目の古典の時、水曜の五時間目の英語の時、木曜の二時間目の数学の時だけだということが分かった。
たまにその時間でも外を見ない日があったけど、そういう時は決まって雨が降っている時だった。
以上の情報を元に、ある日僕はピンときてしまった。
と言っても、それは隣のクラスの風丸くんの一言でだったのだけど。
「雨降ってるから、今日の三時間目は外は無理だな」
「え?」
ぽつりと一人言みたいに呟いた風丸くんに、僕は思わず聞き返す。
「今日は雨だから、これじゃ体育は体育館だなって」
風丸くんは、律儀にもう一度そう繰り返した。
「体育って…今日の三時間目が?」
「? ああ、そうだけど」
不思議そうな顔をする風丸くんに、僕は頭の中のもやもやが晴れてくる気がした。
「もしかして風丸くんのクラス、水曜の五時間目と木曜の二時間目も体育じゃない?」
「…何でうちのクラスの時間割知ってるんだ?」
その言葉に、僕はほぼ確信が持てた。
何故か分からないけど、ヒロトくんはいつも隣のクラスの体育の様子を見ている。
これはほぼ間違いないことだった。
でも一体、どうしてなんだろう?
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