※まだ付き合ってない二人
雷門中から歩いて5分ほどのコンビニに、部活終わりに皆で寄るのが最近のサッカー部の習慣になりつつあった。
店員からしたら迷惑かもしれないが、皆でわいわい騒ぎながら食べ物や飲み物を選ぶのが楽しかったりするのだ。
「半田、からあげの味どれにすんの?」
「うーん…、いつもレギュラー買ってるからたまにはチーズも食べたいし…でもレッドも捨てがたいな…」
ちらりとレジ前に目をやると、さっきから半田とマックスがホットケースを眺めて、真剣にフレーバーで迷っていた。
決め兼ねる半田に、マックスが呆れたようにため息をつく。
「迷ってんならさ、オレもからあげ買うから二人で分けようよ。そしたら二つの味が食べられるでしょ」
「…そうか、でも二つに絞るのも迷うな…」
そうしてまだ悩む半田に、マックスはからかうように笑った。
「ほんと半田ってくだらないことで真剣に悩むよね」
「悪いかよ!」
二人のやりとりがなんだかおかしくて、オレは思わず笑ってしまった。
「何笑ってるんだ?風丸」
すると、隣でジュースを選んでいた円堂が不思議そうな顔をする。
「いや、別に。それより円堂、何買うか決めたのか?」
紙パックのジュースを吟味していた円堂にそう聞けば、両手に二つのパックを掲げて、オレに見せた。
「今すげー迷っててさ!風丸はどっちがいいと思う?」
見れば、右手にはスイカジュース、左手にはレモンオレと書かれたパック。
……なんなんだ、その得体のしれない味のチョイスは。
「円堂…、また変な味のジュース買って、飲めないってオレに寄こすのはやめろよ?」
円堂には何回か前科がある。
この間も、得体のしれない炭酸の飲み物を買って、飲めないと言ってオレに渡してきたのだ。
オレはお前の母親か。
「んーでもさ、こういうのって飲んでみたくなるだろ?」
なんて言いながら、円堂は結局レモンオレを買うことにしたようで、スイカジュースの方を棚に戻した。
「…別にいいけど。お前それ一人で飲めよ」
呆れ気味にそう言うと、円堂は分かってると調子良く返事をした。
本当に大丈夫なのかと思いつつも、オレも何か飲み物を買おうと飲み物の棚に目を向けた。
すると、また円堂が隣から声を掛けてくる。
「なぁ風丸、このプリンうまそうじゃないか?」
見ると、何かのフェアらしく可愛いシールが貼られたプリンがたくさん棚に並んでいた。
円堂は結構甘いものが好きだったりする。
オレもわりと甘いものは好きな方なので、そのプリンは確かに美味しそうに見えた。
「ああ、うまそうだな」
「じゃあオレこれ買う。風丸にも分けてやるな!」
「おうありがとな」
そんなこんなで商品を選び終え、会計しようとレジに並んだ。
そこで、うっかり飲み物を買うのを忘れたことに気付いた。
ちょっと取ってこようと思って振り返ると、後ろに先に会計を済ませた円堂が立っていた。
「風丸これも買うだろ?」
そう言う手には、オレが買おうと思っていたお茶を持っている。
…何てタイミングが良いんだ。
「ああ。ありがとう」
お礼を言って受け取ると、円堂はどういたしましてと笑った。
そうしてレジでお金を払っていたら、ふと横から視線を感じた。
顔をそちらに向けると、何故かマックスがにやにやしている。
何なんだ一体。
しかしまあ、マックスがこんな顔するのはそう珍しいことではないので(半田をからかったりする時はいつもこんな感じだ)、特に気にしないことにした。
店内から出ると、むわっとした熱気を肌に感じる。
クーラーが効いていた店内との温度差に、隣を歩く円堂が小さく呻いた。
「うあー…暑い…」
そして、比較的日陰になる場所の車止めに座った。
それに倣って、数人が同じように車止めに腰掛ける。
オレも円堂の隣に腰を落とした。
「アイス買って正解だったっす〜」
先程買ったアイスをもう口に運んで、壁山が嬉しそうに言った。
それを微笑ましく思いながら、オレもさっき買ったジュースでも飲もうかと袋をガサガサと漁る。
すると、円堂がちょいちょいとオレの肩をつついた。
「風丸、これマジでうまい!ほら!」
やたら興奮気味に、ずいとスプーンに掬った一口のプリンをオレの目の前に突き出した。
その勢いに、オレは少々押されながらも、差し出された一口のプリンをそのまま口にした。
ふわりと口の中に濃厚な甘さが広がる。
「………確かにうまい…けど…、甘すぎないか?円堂お前、生クリームの部分掬いすぎ」
「え?だって風丸生クリーム好きだからさー」
サービスでいっぱい掬ったんだけどと言う円堂に、オレは苦笑いした。
「っはー、甘いのはどっちだろうねえ」
途端、上から声が降ってきて、顔を上げるとそこにはからあげを手にしたマックスがまたにやにやしながら立っていた。
「何がだよマックス」
その言葉の意味が全く分からなくて、そう問い掛けると、マックスは大袈裟にため息を吐いた。
「無意識だから怖いよね。普通さ、男にあーんってされてプリン食べる?」
そう言われて、オレは当たり前に円堂の差し出したスプーンからプリンを食べたことに気付いた。
言われてみれば、何て恥ずかしいことを…!
「しかも、さっきは風丸の買おうとしてたお茶を言わなくても当たり前みたいに円堂が持ってくるし。何ていうかさー、幼なじみ通り越してもう夫婦の域だよね」
マックスの言葉に、オレは思わず固まった。
夫婦って…、それって喜んでいいのだろうか。
確かにオレは円堂が好きだけど、そんなことを言われるとものすごく反応に困る。
「夫婦かー。それって何か嬉しいよな!」
一人でぐるぐるしていると、隣の円堂がオレに笑顔を向けて言う。
「え…?」
「だってさ、オレ風丸のこと好きだし!」
…え、え?
今何か、さらっとすごいことを言わなかっただろうか。
何て返したらいいか分からずに口をぱくぱくさせていると、円堂がまた笑顔で続けた。
「仲良く見えるってことだろ?それって嬉しいことじゃないか」
……ああ、何だ。
友達としてってことか…。
一瞬早とちりした自分が恥ずかしい。
一人赤面していると、マックスがポンとオレたち二人の肩に手を置いた。
「うん、仲良きことは良いことだ。頑張れよ二人とも」
そうして未だにやにや笑うマックスに、オレはひっそりとため息を吐いた。
(夫婦なんて程遠いだろ……)
「なかなか鈍いよねあの二人。端から見れば付き合ってるようにしか見えないのに。ねえ半田?」
「は?何の話?」
恋に盲目
title:メロウ
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無意識に夫婦っぽい二人を書きたくて玉砕\(^O^)/
だけど円→←風おいしいよね!
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