「――、…ちゃん、――ちゃん!」
すぐ近くで誰かの声が聞こえてくる。
どこかで聞いたことがあるような声だ。
だけど、一体誰だっただろう…。
「ねえ、ひいじいちゃん!」
一際大きなその声に、オレは何かに引っ張られるように目を開けた。
すると、目の前に自分によく似た男の子が立っている。
「やっと気付いてくれたね、ひいじいちゃん!」
そうしてニコリと人好きのする笑顔を浮かべる少年に、オレははっと思い出した。
「……カノン?」
ぽつりと問うと、少年はまたにっこり笑って答えた。
「そうだよ!円堂守の曾孫の。忘れられたかと思っちゃった」
冗談まじりに笑うカノンに、オレは全く状況に付いていけなかった。
どうして、またカノンがここにいるんだ?
カノンのことは、もちろん覚えていた。
未来から来たチーム・オーガと一緒に戦ってくれた、オレの――曾孫だ。
その時は目の前の試合で手一杯だったけれど、後でよく考えてみたら、オレの曾孫だというのだから、オレは将来結婚して子供を授かったということだ。
…風丸ではない、別の誰かと。
そう気付いても、オレはそれを口に出すことが出来なかった。
オレが気付いたぐらいだから、風丸だってそう思ったはずだ。
だけどそれについて風丸は何も言わなかったし、態度が変わることもなかった。
だからあまり未来のことは考えないことにしよう、そう思っていたのに。
「…ひいじいちゃん、そんな顔しないでよ」
カノンのその言葉に、はっと顔を上げる。
オレは今どんな顔をしていたんだろう。
分からなくなって、曖昧にカノンに笑いかけると、カノンはため息まじりに笑い返してきた。
「オレ、今まで夢を通してずっとひいじいちゃんに話しかけてたんだ。本当はそういうのってやっちゃいけないんだけど、キラード博士に無理言ってさ!…何でだか分かる?」
「…いや、全然…」
突然の問いに正直に答えると、カノンは少しだけ困った顔をした。
「……ひいじいちゃんは、いずれ誰かと結婚する。だからオレが生まれて、今ここにいるわけだよね」
言い聞かせるようにいうカノンに、オレは何だか怖くなって、隣で寝息を立てる風丸の手をぎゅっと握った。
風丸は相変わらずすうすうと寝息をたてている。
「ひいじいちゃん、風丸さんのことが好きなんだよね?だけどオレが生まれてるってことは、二人はいずれ…、」
「待った!」
カノンの言葉を、オレは思わず遮った。
カノンが驚いた顔でオレを見る。
だけど、オレはこれ以上その言葉を聞いていられなかったのだ。
「確かにオレもそういうこと考えた。悩んだりした、だけど…、風丸は何も言わなかったんだ」
「…え?」
カノンはよく分からない、というような顔をした。
オレは構わず続ける。
「風丸だって、カノンを見てオレと同じくらい悩んだと思う。だけど何も言わなかったんだ。それって、オレのこと信じてくれてるからって思わないか?」
「…どういうこと?」
カノンは首を傾げた。
オレはにっこり笑ってカノンに言う。
「未来がどうあれ、その時が分かるまで、風丸はオレの隣にいてくれるつもりだろうってこと!」
そうして、オレは風丸の手を握る力を強くした。
カノンは数秒間、ポカンとした顔でオレを見た。
しかしその後、すぐに満面の笑みつくってオレに向けた。
「…さすがひいじいちゃん、かっこいいなあ!」
そう言って、カノンはちらりと眠る風丸に目を向ける。
「風丸さんが身体を張ってオレのこと守ってくれた時…、思ったんだ。この二人なら、未来がどうなるか分からないなって」
そして、またオレに向き直って言う。
「その手を離しちゃダメだよ、ひいじいちゃん!」
それだけ言うと、カノンの身体は薄くなり始めた。
「おい、カノン?」
「そろそろ時間みたい。ひいじいちゃんの気持ち、確かめられて良かったよ!」
それだけ言うと、カノンの身体は光に包まれた。
眩しくてなかなか目を開けていることが出来ない。
それと同時に、オレは急に強い眠気に襲われた。
「…どう、円堂」
聞き慣れたその声に、オレははっと意識を引き戻された。
目を開けると、風丸が苦笑いしてこちらを見ていた。
「……、おはよう」
とりあえず朝の挨拶をすると、風丸はさらに困った顔をした。
「おはよう。…そろそろ、手を離してくれないか?」
風丸のその言葉に、オレは左手に伝わる体温に気付いた。
そうか。オレ、あれからずっと風丸の手を握って寝てたのか。
――その手を離しちゃダメだよ、ひいじいちゃん!
どこか遠くの方で、カノンに言われた言葉が聞こえた気がした。
オレはそれに答えるように、くるりと風丸の方に寝返りをうって、その手を両手で包み込んだ。
「…円堂?どうしたんだ、やっぱり怖い夢見たのか?」
心配そうにオレの顔を見る風丸に、オレはゆっくりと口付けた。
「ううん、良い夢見たよ。…風丸のおかげでさ!」
正直なところ、カノンがオレに何を言いたくてわざわざ来たのか、それはあまり分からなかった。
もしかしたら、あれは本当にオレの見た夢だったのかもしれない。
だけど、何にしてもひとつだけ分かったことがある。
「…もうちょっとだけ、手繋いでていいよな?」
そうして、握った手を離さないとばかりに握る力を強くすれば、風丸はまた困ったように笑った。
「何だよ円堂、痛いぞ」
もしかしたら、数年後にオレの隣にいるのは、風丸ではないのかもしれない。
それでも、オレは今この手を離すつもりはなかった。
オレにはカノンが、ちょっとだけヒントをくれたような気がしたのだ。
未来がどうなるか、それを決めるのは、今のオレたちだということに――。
お望みの結末
(それならオレは、この手を離さない)
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カノンくん絡みで
希望を持たせようとしたら
何だか訳が分からない話になった/(^O^)\
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