例えば、肩が触れるくらいの距離で名前を呼ばれた時だとか、その長い髪からシャンプーの匂いがした時だとか。

そうしたふとした瞬間に、風丸に触れたくてどうしようもなくなる時がある。

風丸が好きだという気持ちが大きくなりすぎてしまって、もう溢れてしまいそうになっていた。

あまり焼けていない白い項や、普段は前髪で隠れている額に口付けたら、風丸は一体どんな反応をするだろう。

何だよと笑うだろうか、それとも顔を赤くして怒るだろうか。
どちらにしても、オレの好きな表情だなと思った。

そんなことを考えて、オレは隣に座る風丸の頬に触れた。

テレビを見ていた風丸は、急なそれに驚いたようで、ビクリと肩を揺らしてオレを見た。

「…何だよ、急に!」

あ、想像とは全然違う顔した。

でもなんか、普段あんまり見ない表情をしていて可愛いかもしれない。

そう思ったらちょっとだけにやけてしまっていたみたいで、風丸はぺちりとオレの額を軽く叩いた。

「何だよ円堂、驚かせようとしたのか?いくら今テレビで心霊特集やってたからって…」

風丸は軽くため息をつきながら、リモコンでテレビを消した。

心霊特集なんてやってたのか。
風丸のことばかり考えていたから、全然テレビの音なんて頭に入ってこなかった。

「…なあ、風丸」

「何だ?」

その呼びかけに、風丸は真っ直ぐにオレの目を見た。
長い睫毛で縁取られた赤茶色の瞳は、いつ見ても惹かれる。

「…触っていい?」

「…は、?」

風丸はポカンとした顔をする。

まるで、意味が分からない、とでもいうように。

「ダメか?風丸に触りたい、出来ればキスもしたい」

そうして、ずいっと顔を近付けると、風丸は慌てたように顔を背けた。
その耳は真っ赤だ。

「…お前、そういうことはいちいち聞くもんじゃないぞ…」

その返事を、オレは了承と受け取ることにして、風丸の頬にもう一度触れた。
顔が赤くなっているからか、少しだけ熱く感じる。

親指で軽く唇をなぞると、風丸が小さく息を漏らした。

オレはそれに煽られるように、軽く唇に触れるだけのキスをする。

すると、風丸は顔を赤くしたまま、その顔を隠すみたいにオレの肩にもたれ掛かってきた。
オレはそれを受け止めて、風丸の首もとに顔を埋める。
耳の後ろに鼻を寄せると、むせかえるくらいの風丸の匂いがした。

どうしよう、好きで好きで仕方がない。

その匂いがオレの何かを刺激したみたいで、もっと風丸に触れたいと思わせた。

オレはさらに顔を寄せて、深く息を吸い込んだ。

「…おい円堂、犬じゃないんだから、」

風丸がくすぐったそうに身をよじる。
オレはそんな風丸を離さないとばかりに、背中に腕を回して、きつく抱き締めた。

そして耳元で、吹き込むように言った。

「風丸、すげー好き…。風丸の瞳も、耳も唇も頬も、全部」

些細な癖を見ても声を聞いても、なにもかもが愛しく思えてきてしまう。
風丸の全部が、好きで好きでたまらない。

オレの腕の中で、風丸が笑ったのが分かった。

「…急にどうしたんだ?円堂」

そう言って、風丸もオレの背中に手を回す。

「…オレだって、円堂の全部が好きだよ。ちょっとだけオレより大きい手とか、柔らかい頬とかさ、」

触ってて気持ちいいし、なんて風丸は笑う。

そうして背中に回していたオレの手を取って、自分の頬に持っていった。


「…もっと、触ってほしい」


そうして熱のこもった瞳で見つめられば、オレは風丸に敵うはずがなかった。


風丸の瞳が、耳が、唇が、そして頬でさえ、オレのすべてを掴んで離さないのだ。







瞳も耳も唇も頬でさえ



title:LOVE BIRD





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