憂鬱はみどりいろの続きで
ヒロトがアイドルの俺得な話です
どんなヒロトでも許せる方はどうぞ










ふと寄ったCDショップの、レジ前の一番目立つ場所に、でかでかと大きなポスターが貼られていた。
カラフルなそれに目を惹かれて、ポスターに書かれた赤いゴシック体の文字を読むと、そこにはこう書かれてあった。

『あの大人気イナズマジャパンがついにCDをリリース!予約受付中!』

そしてそこには――右端の方で笑顔を作るヒロトが映っていた。




「ヒロト、イナズマジャパンがCDデビューするって何で言ってくれなかったんだよ」

おひさま園に帰るなり、ソファで雑誌を捲っていたヒロトにそう言うと、ヒロトはピタリと雑誌を捲る手を止めた。

「…え?緑川、今何て?」

「だからっ、何でCDデビューするって教えてくれないんだよ。オレさっき知って、急いで予約してきたんだからな!」

そう言うと、ヒロトは雑誌を床に落とした。

「どうして…。緑川、あんまりイナズマジャパンに興味なさそうだったじゃないか」

「うっ、そうだったんだけどさ…」


そうなのだ、最近のオレは少しおかしい。

アイドルとして活動しているヒロトだが、最近のイナズマジャパンの人気といえば、それはもううなぎ登りだった。

今や主要メンバーの名前が言えないと遅れてるみたいになりつつあるし、テレビや雑誌でイナズマジャパンを目にする機会もすごく増えた。

ヒロトのファンもそれに伴って増えたみたいだった。

学校にもヒロトファンの子はたくさんいるし、ヒロトに渡してほしいとオレにプレゼントを渡してくる子までいる。

そうしたことがあって、オレはどこかヒロトを遠く感じてしまう時があった。
女の子たちがヒロトの話をするたびに、胸が痛くなることも珍しくない。

どこか寂しさを感じているのかもしれなかった。

だからなのか、オレはなんとなくヒロトが出てる番組とか雑誌をこっそりチェックするようになってしまって、それはもう、まるでただのヒロトファンのようだった。

それに何より――テレビや雑誌で活躍しているヒロトを見ると、イナズマジャパンの中で一番かっこいいかも、なんて思ってしまうあたり、オレは相当おかしくなってしまったと思う。

「…別にいいじゃん、急にイナズマジャパンのファンになったって」

適当に誤魔化すと、ヒロトは落とした雑誌も拾わず頭を抱えた。

「いや…それはもちろんすごく嬉しいんだけど…、CDは…」

何かぶつぶつ呟くヒロトに、オレはふと思い出した。

「…そういえば、ヒロトってみんなでカラオケ行っても歌わないよね」

そう言うと、ヒロトはあからさまにピクリと身体を揺らした。

「…だからオレはさ、歌うのは好きじゃないんだって…」

そうしてヒロトは背中をまるめる。

…あれ、オレもしかして地雷踏んだ?

そう思ったのがどうやら顔に出ていたらしく、ヒロトはオレを恨めしげに見て言った。

「一応オレの名誉のために言うけど、音痴なわけじゃないよ。…上手くもないけど」

いつものヒロトからはとても想像出来ない、なんとも弱々しい声だった。

それになんだか、ファンの子たちが知らない一面を見れたようで少し嬉しくなってしまった。

そういえばヒロト、昔から行事の合唱とかも乗り気じゃなかったかも。
そういうの誤魔化すのは上手いから、今まであんまり気付かれなかっただろうけど。

…もしかして、ヒロトは勉強も運動も人より出来るから、あんまり得意じゃない歌をコンプレックスに思ってるのかもしれない。

「じゃあさヒロト、今からでも練習しようよ!」

「…え?」

ヒロトはポカンとした顔をする。

「ほら、とにかく何か歌ってみてよ!」

せーのっ、と手拍子を取って促すと、ヒロトは躊躇いながらも歌い始めた。


「…きーみーがーよーは、」


……………うん、何で選曲が国歌なのかは、この際置いておくとして。

なんていうか…確かに、すごい上手いと持て囃されるような感じではないかも。
決して下手ってわけではないんだけど。

だけどもオレは、この独特なヒロトの歌が嫌いではないと思った。
いや、むしろ…。

「オレは好きだな、ヒロトの歌」

優しくて、伸びやかな声で。
聞いていて何だか安心出来る。

「…上手いか下手かじゃなくてさ、心を込めて歌えば、きっと聞いてる人にもヒロトの気持ち、伝わると思うよ」

一丁前にそんなことを言えば、ヒロトは何度か瞬きをして、小さく笑った。

「緑川がそう言うなら、きっとそうだね」

その笑顔に、オレは思わずドキッとしてしまう。

ダメだ、ヒロトの笑顔は心臓に悪い。
さすがアイドルの笑顔と言うべきか。

「と、ところでさ、デビュー曲ってどんな感じなの?」

ドキドキを振り払うようにして聞くと、ヒロトはちょっと考える素振りをした。

「よくあるラブソングだよ。…心を込めて歌えば、好きな人にもきっと気付いてもらえるよね?」

そして、オレの目をじっと見つめる。

それは、もしかして…。

「それって、前に言ってたヒロトの好きな子に?」

「…うん、」

ヒロトは相変わらずオレから目線を外さなかった。

「オレ、歌に自信がなかったから、その子にはあんまり聴いてほしくないと思ってたんだけど…。でも、気持ちが伝わるなら聴いてほしいなって思った」

そうして微笑むヒロトに、オレは何故か、どんな顔をしたらいいか分からなくなった。





それから日は経ち、イナズマジャパンのCDの発売日になった。
オレは朝からわざわざCDショップまで出向き、しっかりと初回特典の付いたCDをゲットすることが出来た。

おひさま園に帰って、すぐにCDプレーヤーにCDをセットする。
イヤホンを耳に差して、準備完了だ。

ドキドキした気持ちで再生ボタンを押す。

すると、ドラム音から始まる、軽快な音楽が流れ出してきた。

最初はキャプテンの円堂のソロ、人気メンバーの吹雪、豪炎寺のソロ、全員で歌うパート…と、一曲通して聴くと、ヒロトのソロパートはワンフレーズぐらいしかなかった。

相変わらず独特の、伸びやかな声だ。

「…ヒロト、ちゃんと気持ち込もってるじゃん」

たったワンフレーズだけど、優しい、耳に残る歌声。

誰にともなくそう言えば、オレはまた悲しくなってきてしまった。

ヒロト、好きな子を想って歌ったんだよね。
……なんか、それ、嫌だな。

何でだろう、自分からヒロトに気持ちを込めて歌えばいいって言ったくせに。

そこでオレは、ようやく自分の中のひとつの感情に気付いてしまった。

ヒロトがイナズマジャパンの中で一番かっこよく見えてしまうのも、ファンの子たちが知らない一面を見れて嬉しいのも、笑顔にドキドキしてしまうのも、好きな子を想って歌った歌が嫌なのも、それは、全部――。


「ヒロトのことが、好きなんだ…」


これってやきもちじゃないか。

ヒロトはアイドルで、しかも好きな人がいるみたいなのに。


オレの前途多難な恋は、こうして始まってしまったのだった。






あなたに奪われた心臓を




title:LOVE BIRD


------------------
ヒロトを歌上手くない扱いにしてすみません
スターライン大好きです





back
「#オメガバース」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -