※数年後設定で切ない感じです
「オレ、結婚するんだ」
長い並木道を歩きながら、オレと付き合っていた頃と変わらない屈託のない笑顔で、円堂は言った。
「…そうか。おめでとう」
そう言うと、へへっと円堂は照れくさそうに髪を触った。
ああ、そんなところまでちっとも昔と変わっていない。
円堂と別れてから、ずいぶん年が経った気がする。
その間に、オレにもいろいろなことがあった。
好きな人も出来たけれど、やはり頭の隅に円堂の影がちらつく時があって、あまり長続きはしなかった。
そもそも円堂に別れを切り出したのは、オレの方だっていうのに。
どんなにお互い好きだとしても、結局オレたちは男同士なわけで、いつまでもこのままでいられるわけがない。
将来はどうする?子供だって出来ないのに。
そんなもやもやした黒い考えに囚われて、オレは耐えられなくなってしまったのだ。
二人を隔てた全ては、オレのせいだ。
今日は二年ぶりの再開だった。
たまに連絡はとっていたけど、こうして二人きりで会うのは本当に久しぶりだ。
今歩く並木道は、昔二人でよく一緒に帰った道だった。
桜の花びらを掴まえようとした春や、陽炎で揺れる道をアイスを食べながら歩いた夏や、枯れ葉を踏み散らしてはしゃいだ秋や、寒いと言って上着のポケットの中で手を繋いだ冬。
この道は、本当に円堂との思い出ばかりだ。
もっとゆっくり季節が巡っていくものだと思っていたのに、円堂が隣にいないだけで、こんなに早く一年が過ぎていくなんて思わなかった。
「懐かしいよなぁ、この道。よく中学生の頃に一緒にここ歩いたよな」
「ああ…そうだな」
円堂が懐かしむように木を見上げた。
太陽の光に眩しそうに目を細める。
さっきから、その円堂のしぐさや言葉ひとつひとつが、オレの胸の深いところをノックしてくるみたいだった。
懐かしい、か。
円堂にとって、それは懐かしい思い出なのだろう。
だけど、オレは…、
オレにとっては……。
口から何か言葉が出てきそうなところを、オレは唇を噛んでぐっと我慢した。
ダメだ、オレ。
胸の中にある蓋が開いてしまいそうな気がして、オレは慌てた。
「…また、お前とサッカーしたいな」
それを自分の中で誤魔化すみたいにそう言った。
けれど、そうは言っても、時間は巻き戻ってはくれない。
歩く円堂の影が長く伸びているのを見て、何故か切なくなる。
二人で歩いたこの道は今もちゃんとあって、今こうして一緒に歩いているのに、まるであの頃とは違うのだから不思議だ。
陽炎で道がゆらゆら揺れて見える。
「おう、またサッカーやろうぜ!」
円堂が笑顔でそういうのも、今はただ苦しく感じた。
円堂はもう前を見て真っ直ぐ歩き出しているのに、オレはまだあの頃に突っ立ったままだ。
「そうだ、結婚式の招待状、そのうち送るな」
「…、ああ」
あの時、オレに好きだと囁いた唇で、こうしてオレの胸に突き刺さることを言うのだからつらい。
オレだって前を向いて歩きたいのに。
円堂のしぐさが、声が、匂いが、それをいちいち邪魔する。
その精一杯の抵抗とばかりに、オレは満面の笑みを作った。
「お前ら、絶対幸せになれよ」
そうでなければ、オレはこの恋を拭えないのだから。
この恋を拭えない
title:LOVE BIRD
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なんとも抽象的な話…
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