※大学生設定で鬼道さんが一人暮らししてます












起きた時からなんとなく体調が優れなくて、体温を測ってみると案の定38度も熱があった。
幸い今日は大した授業もないし、もう大学は休んでしまおう。

そう決めた途端、急に身体がダルく思えてきた気がする。
そういえば最後に熱を出したのはいつだったか。

とりあえず流れ出る汗がひどいので、タンスの奥から適当に引っ張り出した、吸水性のありそうな古いパジャマに着替えた。

もう何も考えずに、とにかく寝てしまおう。
そうすれば少しは良くなるかもしれない。

そんな荒削りな考えで、オレはベッドに伏せった。




意識の遠くの方で、水道から水が流れ落ちる音がする。

――オレは水道を出しっぱなしにしてしまったのだろうか?

その音に引き戻されるようにぱちりと目を開けると、明々とした電球の明かりが目に飛び込んできた。

カーテンの隙間から見える外の景色は真っ暗で、いつの間にか夜になってしまったらしい。

しかし、自分は朝寝たのだから電気は点けていなかったはずだ。

そんなことを考えながら身体を起こすと、額から冷たいタオルが滑り落ちた。

…何だ、これは。

よく見ると、ベッドの脇に体温計やら薬やらが置いてある。
全く身に覚えのないそれらに戸惑っていると、ふいに部屋のドアが開く音がした。

「あれ、鬼道クン起きたんだ」

その声に目を向けると、その声の男――不動は、口の端を上げてにやりと笑った。

「何そんなに驚いてんの?」

「…不動、」

不動が突然、しかも勝手に部屋に上がり込んでくるのは、何もそんなに珍しいことではなかった。

何だかんだ不動と付き合って長いのだし、一人暮らしをしているオレの部屋の合鍵は、一応不動に渡していた。
それを使って、不動は気まぐれにオレの部屋に上がって来たりするのだ。

オレが驚いたのは、不動が勝手に家に上がり込んでいたからではなく、その手にお粥らしきものを持っていたからだった。

「その手に持っているものは…」

オレがそう聞くと、不動はそのお粥をベッドの脇のテーブルに置いて、馬鹿にしたように笑った。

「お粥。他に何に見えんの?」

そう言って、ベッドサイドに腰掛ける。

「鬼道クンさぁ、何でそんなダサい赤いパジャマ着てるわけ?鼻も赤いし」

「……汗を掻くから、適当に吸水性のありそうなタオル地の服に着替えただけだ。…鼻が赤いのは、仕方ないだろう」

「タオル地って何だよ。パイル地って言えよ、年寄りじゃないんだから」

そんなくだらないやり取りが始まってしまい、オレはさっきから聞きたいことを言い出せずにいた。

ようやく不動が話すのをやめて、脇に置いたお粥に手を伸ばした時、オレはやっと質問を切り出すことができた。

「タオルと体温計と薬…、それにこのお粥もだが。どうしたんだ、お前が看病してくれるなんて」

自分に全く身に覚えのないそれらは、明らかに不動が用意したものだった。
不動がこんなことをするなんて、きっと何かあるに違いない。

すると、不動はオレから目を逸らして、まだ湯気をたてるお粥を見つめた。

「…鬼道クン気付いてなかったみたいだけどさぁ。三日前、オレ風邪気味ですげぇ身体ダルかったんだよ。なのに鬼道クン、オレのこと襲ってきたじゃん」

淡々と喋る不動に、オレは三日前を思い出した。

いつものようにふらりと現れた不動は、言われてみれば確かに、少しダルそうにしていたかもしれない。

だけど不動は基本的に気だるい感じだし、あまり気にかけなかった。
不動の体調に気付かず、欲に任せて抱いてしまったことに、オレは少し反省した。

「まぁそれで、たくさん汗掻いたからすぐ治ったんだけど。今度は見事に鬼道クンが風邪ひいてるから」

不動の言おうとしていることが、最後まで言わずとも分かった。
つまりは、不動の風邪がオレに移ったと思って、それで少し悪く思って看病してくれているのだろう。

そんなの、こちらにも責任があるというのに。

不動はひねくれた性格のくせに、こういうところだけ変に律儀だったりする。

「…なあ不動。人間は、一度かかった風邪のウイルスには、もうかからないと言われているな」

そう言うと、オレが言わんとしていることが分かったのか、不動はその薄い緑の目を瞬かせて再びにやりと笑った。

「じゃあお望み通り、オレがそのウイルスを引き取ってやるよ」

そうして、噛み付くようにオレにキスをした。

舌で散々口内をかき回した後、唇を離した不動は、また不適に笑って言うのだった。

「息あがってるぜ、鬼道ちゃん」

それは熱のせいなのか、はたまた激しいキスのせいなのか。

熱くなる身体は、風邪のせいだと思いたかった。







you gave me your cold

(おまえにかぜをうつされたんだ)





title:うきわ


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一度かかった風邪のウイルスにはもうかからないっていうのは
本当か分からないので信じないでください

この話で書きたかったのは
赤いダサいパジャマを着た鬼道さんと
パイル地って言えよって言う不動です






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