風丸の髪は本当に綺麗だと思う。
サッカーボールを追って揺れているポニーテールも、風呂上がりで水分を含んだ濡れた髪も、ベッドに広がる乱れた髪も、オレは全部が大好きだった。
練習終わりのシャワーを浴びた後、いつもはひとつにまとめられている風丸の髪の毛も、今ばかりは解かれていた。
ドライヤーをかけたらしく、髪はすっかり乾いている。
オレはその髪にそっと手を伸ばすと、それに気付いた風丸は振り返って不思議そうな顔をした。
「…何だよ、円堂」
「いや、ちょっと触りたくなってさ」
そう正直に言えば、風丸は「何だよそれ」と、ちょっと笑って前に向き直った。
それを良いことに、オレは風丸の髪に指を通したりする。
何のシャンプーを使っているのか、その髪からはいつも良い匂いがしてくる。
この匂いがすると、ああ風丸の匂いだ、と思ってオレはいつもドキドキしてしまうのだ。
そうかと思えば、オレの家に泊まったその次の日に、その髪からオレと同じシャンプーの匂いをさせているのにドキドキしたりもする。
でもそういうのがオレはたまらなく嬉しい。
そんなことを考えて、オレはこの気持ちが抑えられなくなって、風丸の髪をかき分けてその綺麗な項にそっとキスを落とした。
「…円堂、くすぐったい」
唇を離すと、風丸はくすくす笑った。
くすぐったいって、何とも色気がないセリフだ。
だけど、そうやって笑う風丸につられてオレも思わず笑ってしまった。
「…なあ円堂。髪を結んでくれないか?」
くるりと振り返って、風丸はオレにゴムを突き出した。
「え?オレが?」
「ああ」
突然の風丸の言葉に、オレは戸惑った。
オレは器用な方ではないし、ましてや妹なんかもいないから、人の髪の毛を結ったことなんか一度もない。
(豪炎寺ならできるのかもしれないけど)
「オレにできるかな…」
それでも一応ゴムを受け取ると、風丸はまた前に向き直った。
「円堂に結んでほしいんだ」
そんなことを言う風丸に、オレはちょっとだけ面食らってしまった。
風丸がこんなことを言うのは珍しい。
「…分かった、」
そう返事をして、風丸の髪に指を通す。
サラサラしていて艶もあって、本当に綺麗だ。
髪をひとつに纏めてゴムでくくるというだけなのに、オレはそれにとても苦戦した。
風丸はすごいな、毎朝こんなことやってるんだもんな。
そう思いながら結んでいる間も、風丸の匂いにドキドキしてしまう。
そうして20分くらいかかってできたポニーテールは、とても不恰好なものだった。
後れ毛がたくさん出ているし、何より結ぶ位置がいつもよりかなり低い。
おまけに結びが緩くて、今にも解けてしまいそうだ。
鏡を覗いた風丸は、それを見て吹き出した。
「ふっ、円堂下手だな」
「だって、そりゃあ初めてだし!」
躍起になってそう言うと、風丸は笑うのをやめて、愛おしそうに自分のポニーテールを撫でた。
「いいよ、どうせ後は帰るだけなんだから」
どことなく嬉しそうに言う風丸に、オレはまたドキッとしてしまった。
思ってみれば、風丸が髪を解いたり結び直したりするのは、いつもそういうことをする前だったりするから、だからこんなにドキドキするのかもしれない。
「そろそろ帰ろうぜ」
荷物をまとめてドアノブに手を掛ける風丸の腕を、オレは思わず自分の方に引っ張った。
「わっ、何だよ」
それに少しよろけた風丸は、オレの方を向いて非難の声をあげる。
「…あのさ、せっかく結んだところ悪いんだけど…。もう一回、解いちゃうかも」
まっすぐ見つめてそう言うと、その意味が分かったのか、風丸はすぐに顔を赤くした。
「…じゃあ、またお前が髪を結んでくれるか」
恥ずかしそうに言う風丸に、オレは頷いた。
「もちろん。結ぶのも解くのも、オレだけがいい」
そんなことを言えば、風丸は笑った。
「じゃあ、もっと上手く結べるようにしろよな」
そうして不恰好なポニーテールが揺れる度に、オレはまた風丸にドキドキしてしまうのだった。
どうしてどうしてこんなにも
title:うきわ
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DE戦の風丸とかは
いろいろ無視した話
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