※ヒロトが思春期でお盛んな感じです











緑川に好きだと告げてから数ヶ月が経った。
顔を真っ赤にして、オレもと頷いてくれた緑川は、今までで一番可愛く見えた。

それからオレたちは、手を繋いだり抱き合ったり…、ゆっくりと仲を深めてきたといってもいいだろう。
だからこそオレは、ちょっとだけ先に進みたいと思っていた。

キスをしたことは何度もある。
それこそ数えきれないくらい。

だけど、それはいわゆるフレンチキス、というヤツだ。
舌を入れるようなディープなのは、まだしたことがない。

そんなわけで、オレは思いきって、キスの時に初めて舌を入れてみることに決めた。




そのチャンスはすぐに巡ってきた。

たまたま談話室で緑川が一人テレビを見ていたので、オレはすかさずその隣に座った。

「オレもこの番組見たかったんだ。一緒に見てもいい?」

そう言うと、オレの胸の内を知るはずもない緑川は、こちらを向いて不思議そうな顔をする。

「珍しいね、ヒロトがこういうの見るの」

確かに、流れているテレビ番組はオレが普段見ないような、よくある動物系バラエティだった。

「たまにはね」

そう言って、オレは一応テレビを見るふりをする。
動物は確かに可愛いけど、これではあまりムードがない。

「ねえ、緑川…」

それでもオレはタイミングを見計らって、緑川に顔を近付けた。
纏うオレの雰囲気を察した緑川は、そこでぎゅっと目を瞑った。

まずは軽く唇同士を触れ合わせる。
ん、と緑川が軽く息を漏らしたのが分かった。

――いつもなら、ここで唇を離す。

だけど、今日はこれで終わらせるつもりはない。
ほんの少し顔を傾けて、緑川の唇を舌でなぞった。

それに促されるように薄く開いた唇の隙間から、ゆっくりと舌を差し込む。
すると一瞬、ざらりとした舌が触れ合う感触がした。

その突然の出来事に緑川はとても驚いたらしく、肩をびくりと跳ねさせた。

そして、あろうことか――思いきりオレの舌を噛んだ。

「っつ…、」

「ごっ、ごめんヒロト!」

大丈夫!?と心配そうに覗き込んでくる緑川。

じんじんする舌を我慢して、オレはやんわりとその肩を掴んだ。

「…いや、こっちが悪かったよ。……嫌だった?」

緑川の目をまっすぐ見てそう聞くと、緑川はちょっと慌てた。

「いっ、嫌だなんてそんな、急だったからびっくりしただけで…、」

可哀想なくらい顔を真っ赤にして、しどろもどろに話す緑川がとても可愛く見える。
オレはちょっとイジワルしたくなってしまって、さらに緑川に問いかけた。

「びっくりしただけで?」

「び、びっくりしただけで…。……嫌では、ない」

そう言って恥ずかしそうに目線を反らす緑川に、オレはひとまず安心した。

よかった、嫌なわけじゃないのか。
オレだって、緑川がどう思ってるのか不安になったりするわけで、今の言葉にちょっと嬉しくなった。

「…じゃあさ、」

そこでオレは、気を落ち着けさせるみたいに緑川の額に軽く口付けた。

「次は、ああいうキスしてもいいかな?」

額に掛かる髪を優しく撫でながらそう聞くと、緑川はまた顔を真っ赤にして、でも確かに頷いてくれた。





そんな出来事があってから三日後。

なんとなく忙しいということもあって、あれからなかなか二人になる機会はなく、キスはお預けになってしまっていた。

しかしオレは、少し余裕な気持ちだった。
何故なら、緑川があの時頷いてくれたからだ。

ちょっとだけ先に進みたいと思うのは、自分だけではないと確認できたことは大きい。


――そんな矢先、ようやくオレの部屋で緑川と二人きりになる時がきた。

ベッドのふちに寄りかかって、お菓子片手にテレビを見る緑川の隣に、オレはそっと近寄った。

緑川はそんなオレにあまり気付いてない様子で、相変わらずテレビを見続けている。

「…緑川、」

耳元でそう囁いて、前と同じように顔を近付ける。

あと数センチで唇が触れる、というところで、緑川ははっとした顔をして思いきり顔を背けた。

………え?

「緑川…?」

数秒遅れて、拒まれたんだと頭で理解する。
こんなことは今まで一度もなかったので、思いの外ショックが大きかった。

二の句がなかなか出てこない。

緑川はそんなオレを見て、一瞬、しまったというような顔をした。

「違うんだ、ヒロト」

今のは違うんだよ、と必死に緑川は言う。

「今のは、ヒロトとキスするのが嫌だったわけじゃなくて…!」

「…うん」

言い淀む緑川に、オレはゆっくり先を促す。

たっぷり間を開けて、緑川はひどく小さい声で言った。


「…実は、舌に口内炎が」


………、口内炎、だって?


「緑川、舌見せて」

オレのその言葉に、緑川は素直に口を開けて舌を出した。

確かに、舌に痛そうな炎症が見える。

「モノを食べるのはなんとか大丈夫なんだけど…」

そう言う緑川に、オレは思いっきり拍子抜けしてしまった。

「…ビタミン不足なんじゃないの?緑川、最近お菓子ばっかり食べてるから」

ほら今も、とオレはさっきまで緑川が持っていたお菓子をつまみ上げた。
なんとも昔懐かしい、シガレットを模した砂糖菓子だ。

「うっ…。ごめん、ヒロト」

しゅんとしてしまった緑川に、オレはにっこり笑いかける。

「…それは、緑川もオレとキスしたかったって思っていいんだよね?」

なんてことを言ってやれば、緑川はまた顔を赤くして「…ばかヒロト、そうだよ、」と小さく呟いた。

そんな可愛い緑川にキスしたいのを我慢して、オレは代わりとばかりに甘いシガレットを口にしたのだった。







キスの代役シガレット



title:LOVE BIRD


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シガレットを模したお菓子は
コ●アシガレットのことです





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